趣味・興味が『桃鉄』になり、さらにつながりを生む
Nintendo Switchで発売中の『桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~』は、さくま氏が手掛けたゲームの最新作だ。サイコロを転がして日本中を鉄道で旅しつつ、各地の物件を購入して億万長者を目指す。まさしく定番のパーティーゲームである。
『桃鉄』シリーズは単純にすごろくをコンピュータゲームにしただけではなく、リゾートなどの物件を購入していくという要素が追加されている。これは西武グループの会長を務めていた実業家の堤義明氏の経営戦略からインスピレーションを受けており、ゆえに鉄道を使って全国の物件を買って回るといった内容になった。
日本全国が舞台になっているため土地それぞれの魅力が描かれ、日本で生まれた人ならばまずどこかに思い入れを持つようなつくりになっている。シリーズ2作目の『スーパー桃太郎電鉄』からお金や物件を捨ててしまう「貧乏神」や、さまざまな効果を発揮する「カード」の要素が追加され、定番のパーティーゲームとして人気を博すように。『桃鉄』シリーズで販売本数100万本を越えたタイトルは、3作品にもなる。
さすがに現在は、ファミリーコンピュータの時代と比べて開発規模も大きくなったうえに関わる人数も多くなった。しかし、さくま氏は「いつもどおり頑張って仕事をこなした」という。つまり、ゲームクリエイターとしての心がけは今も昔も変わらないというのである。
これはどういうことか。もともとさくま氏は旅行と食べ歩きが趣味だが、それは『桃太郎電鉄』シリーズの取材も兼ねている。仮にプライベートで旅行に行ったとしても海辺でボーッとするなんてことはできる性分ではなく、とにかく日本全国に行って作中の物件のモデルになる店の情報を集めているそうだ。また、プレーヤーを助ける「歴史ヒーロー」がゲームに登場するのも、歴史好きが高じた結果とのこと。
さくま氏の人脈も昔の仕事とつながっている。かつて「ジャンプ放送局」の読者だった子供たちが成長してお笑い芸人になり、さくま氏にプレーの感想を伝えることも多いという。例えば、麒麟の川島明氏もかつてのハガキ職人だ。また、最新作で音楽を担当しているヒャダイン氏は、自らのコラムなどで「地理は『桃鉄』で覚えた」と語っている。バッファロー吾郎A氏、水道橋博士氏なども『桃鉄』好きを公言しており、そこからさくま氏との仕事に関連していくという。
秋田の鍋といえば「すき焼き」と言われ…
物件のモデル探しにあたっては、インターネットがなかった時代は現地に行かなければわからないことが多い。インターネットが普及して楽になるかと思いきや、正確な情報収集のための労力が減るわけではなかった。
例えば、地元の人が普段食べているものがわかりにくくなった傾向があるそうだ。秋田で地元の人にどんな鍋を好むのかと聞いたところ、意外な答えが返ってきたという。
「秋田でしょっつる鍋、きりたんぽ鍋、だまこ鍋のどれか聞いたら、答えは“すき焼き”」
確かに、郷土料理もおいしいがすき焼きもかなりおいしい。地元の人からすれば空気のような存在の郷土料理を、ことさら褒めるのは違うのだろう。SNSでの拡散目的で作られた、地元民も食べない宣伝用のB級グルメの情報が独り歩きしていることもある。こういった細かな調査もリアリティーのあるゲームに反映されるのだろう。