日銀が債務超過に転落すれば国債買い入れは不可能に

コロナ危機のもと、日本の財政事情がこれほどまでに悪化しても、もはや長期金利が上昇することはないかもしれない。それほどに、これまで日銀が行ってきた国債のいわば“買い占め”、すなわち“金融抑圧”の効果は絶大なものだ。コロナ危機が続いているのに、株式市場はバブル期以来の高値を記録している。これも日銀のETF(株価指数連動型投信)買い入れの絶大な効果だろう。

しかしながら、それはこの国の経済や財政運営のすべてのリスクが、日銀に転嫁されていることを意味する。

ひとたびリスクが顕在化し、日銀が赤字ないしは債務超過に転落し、それが長期化する事態となれば、日銀の損失は年当たり数兆円の規模に達し、政府が補填を余儀なくされるであろう。

実際、日銀が保有する資産の加重平均利回りは2020年度上半期決算時点でわずか0.198%しかなく日銀は今後、短期金利をたった0.2%に引き上げるだけで“逆ざや”に陥る。一方、負債である当座預金の規模がすでに487兆円(2020年11月末)にまで拡大している現在、“逆ざや”の幅が1%ポイント拡大するごとに、日銀は年度あたり5兆円弱の損失を被ることになる。日銀の自己資本が、引当金まで合わせても9.7兆円しかないことを考えると、日銀が債務超過に陥る可能性は大きい。

日銀が債務超過に転落した時には、おそらく通貨としての円の信認も同時に問われる事態となり、円安圧力が大幅に高まるだろう。そうなれば、日銀としては本来、金利を引き上げて円を防衛せざるを得ない。

しかしこれだけバランス・シートを拡大させてしまった日銀は、今後、金利を引き上げるためには、抱え込んだ巨額の当座預金に付利する金利水準を上げていくよりほかにない。付利水準の引き上げは、日銀の債務超過幅をさらに拡大させることになる。年当たり数兆円というコストは、厳しい人口減少が進むこの国で、私たち国民が租税の形で容易に負担できる金額では到底ない。

日銀の債務超過が問題視されるようになった時点で、日銀の赤字を、これまでのように国債を増発してそれを日銀に引き受けさせて捻出して穴埋めすることは、日銀のバランス・シートをさらに拡大させ、債務超過幅をさらに拡大させることを意味するため、まさに“火に油を注ぐ”事態に相当する。