頭取宅も火に包まれたアイスランドの悲劇

資本移動規制は、歴史の本に出てくるような昔話ではない。実際、リーマン・ショック以降にも、そうした悲惨な事態に陥った国が複数存在する。アイスランド、キプロス、ギリシャの3カ国がそれだ(図表1)。

リーマン・ショック後に国内債務調整(事実上の財政破綻)状態に陥った先進国

アイスランドは北大西洋に浮かぶ島国で、EU非加盟の小国である。2008年の金融危機以前は、政府債務残高規模(名目GDP比)はわずか27%、財政収支も約5%の黒字という“超”健全財政国だった。唯一の問題は同国の民間銀行で、折からの低金利に乗じて、欧州大陸向けに派手にビジネスを展開し、同国の三大銀行の資産規模は、金融危機直前の2007年には実に名目GDP比900%近くにまで膨れ上がっていた。2008年、そのアイスランドをリーマン・ショックが直撃し、株価や地価といった資産価格は暴落し、三大銀行は相次いで経営破たん、その救済のために、アイスランドの財政事情は急激に悪化した(図表2)。

リーマンショックまで優良健全財政国だったアイスランド 〔2000年代以降のアイスランドの財政指標で、(いずれも名目GDP比)の推移

同国の通貨であるアイスランド・クローナは外国為替市場で売りを浴びせられて急落。アイスランド中央銀行は当初、政策金利を18%にまで引き上げてクローナを防衛しようとしたが、国内の経済や財政運営のことを考えれば金利の引き上げにも限度があり、市場の圧力に抗し切れなくなった。

IMF(国際通貨基金)は「為替急落を引き金とする金融危機」の状態を図表3のように図示しているが、当時のアイスランドはまさに、「為替の減価(急落)」と「金融引き締めの制約(限界)」、「資本流出」が三つ巴での負の連鎖状態に陥るという、まさにその典型的な事態に陥ったのである。同国に残された選択肢は国際的な資本移動規制をかけて国外への資金流出を止めることで、そのための措置が金融危機の2カ月後の2008年11月に導入された(前掲図表1)。他に方法はなかった。

為替急落時の金融危機のメカニズム