現場の保健師たちも「公務員は少ないほうがいい」という世間の風潮の中、なかなか声を上げることができずにいたという。
そもそも「保健師」がどんな仕事をしているのかを把握している人は少ない。
保健師は、いわゆる「公務員」。同職に就くには、看護師国家試験合格後、指定された養成所で1年以上の学科を修了し、さらに保健師国家試験に合格する必要がある。それがゆえに保健師には「元看護師」も多いが、大阪府のあるベテラン現役保健師によると、仕事の内容は全く違うという。
「看護師は病院で医療をする、いわゆる“迎え入れる看護”。それに対し、保健師は“向かっていく看護”。難病や障害、ターミナルケア(死を目前にしたケア)など、いわば入院患者よりも病状の重たい在宅患者を看るため、その患者家族の人生も含めた『生活支援』がメインの仕事になります。在宅での医療がゆえに世間からは見えず、保健師の存在はなかなか知られにくいのが現状です」
保健所の仕事は「コロナ」だけではない
新型コロナウイルスのPCR検査で一時的に注目された保健師だが、彼らの仕事はコロナ対応だけではない。
「保健所の業務は感染症対策以外にも、母子保健、難病、精神保健など多岐にわたり、多様化する健康課題のニーズを受け、年々より高い専門性が求められています。指定難病の対象拡大、増加傾向にある虐待ケースへの対応、自殺予防対策、薬物やアルコール依存症対策など、新たな課題へも対応し、個別支援や地域の体制づくりに取り組むとともに、災害時の健康危機管理のための管内医師会等との調整、管内医療機能の役割分担を進め、住民が困らない医療提供のための医療懇話会の整備など、医療体制の地域整備も進めています」
「今から自殺します」という命ギリギリの電話の対応も保健師の仕事だ。そんな電話が掛かってきた時はどうするのか、前出の現役保健師に聞いたところ、電話は切らず、切らせず、とにかく会話を長引かせるのだという。
「その間、メモか何かで周りの職員にその旨を伝えて現場に向かったり、関係機関に連絡したりするなどの連係プレーを取ります。1件何かが起きると、一気に何人もの保健師が動くことになるため、現場は常に緊張し、そして逼迫しています」
「公務員を減らすべき」その風潮が招いた保健所削減の失策
保健所でこれだけ多種多様なケースに対応するので、保健所には保健師だけではなく、行政職(事務職)、精神福祉相談員、薬剤師、食品衛生監視員など、さまざまな資格をもった方々が働いているという。
小松さんは、「こういう一人ひとりの存在も国民の皆さんには知ってほしい」と訴える。
しかし、そんな彼らの存在や業務内容を知らない・知ろうともしない国や国民からは、「血税」意識があるからだろう、一様に「公務員を減らすべき」「公務員はより少ないほうがいい」という声があがる。