こうした風潮に押され、保健所は既述の通り激減。必然的に保健師も減らされ、自治体によっては過去に新卒を採用しない年もあったという。

「大阪府でも29あった保健所・支所が15にまで減らされました。その後、6つの保健所が中核市に移行され、現在は9保健所に。大阪市も24の保健所が1カ所になっています。団塊の世代の保健師が退職し、最近は保健師を採用しているが、計画的な採用を行っていないので、専門性の高いベテラン保健師、専門職が少ない実態があります」(小松さん)

そんな状態の中で勃発したのが新型コロナウイルスの感染拡大だった。

コロナ禍の保健師…休みゼロ、残業時間は180時間超

先に紹介した通常業務に加え、保健師にのしかかるコロナへの対応は、感染の疑いのある人の検体採取、陽性と診断された人の搬送付き添いや、濃厚接触の疑いがある人への連絡など、実に多岐にわたる。

濃厚接触者への健康観察は、1日2回するところも。感染者や濃厚接触者が増えれば彼らがすべき聞き取り調査の量も膨大になるため、アプリなどでの対応も検討されたが、現場の保健師はその対応には反対だという。

「本人が大丈夫だと言っていても、声の感じや話し方、話す内容で察する異常もあるため、直接話を聞くことが大切。仲のよかった夫婦が、2週間の健康観察で険悪になることも。そういった際のフォローも保健師がやっています」

細かなケアが必須の現場。コロナ前からベテラン保健師も人手も足りない中の対応を迫られた保健師たちには、それゆえ労働時間が過労死ラインをはるかに超える職員も多い。

前出の保健師も、「4月は1日も休みがなく、時間外勤務が180時間を超えた」という。が、さらに小松さんはこう付け加える。

長時間勤務を終えて帰途に就く男性
写真=iStock.com/rothivan
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「これは、あくまで『保健所にいた時間』です。保健師は、電話が鳴れば自宅にいても飛んでいく。急変や差し迫った相談によって夜中1時に帰っても夜中3時に電話で起こされることもありますから、実際はもっと長いはず」

保健所職員のコロナウイルスに関する主な業務

現役保健師が危惧する「コロナ関連死」

現在保健師が危惧しているのは「コロナ関連死」だ。とりわけ、外出自粛によって体が弱り、外に出られなくなった高齢者の「コロナ鬱」や、それに関連する自死には強い危機感を抱いている。

現に今年10月の自殺者は昨年より600人多い2000人超。同月のコロナ感染者数の死者よりも多い。保健所に入る自死関連の相談者も例年より多いとのことだ。

こうした現状から、現場には"上"から「丁寧に相談を聞くように』という指示が下りてきたという。

「指示されるまでもなく、もちろん丁寧な対応を心がけていますが、コロナ業務もやりながら手薄になってしまわないか心配しています」(前出保健師)

多様化する社会構図の中、複雑な悩みや問題を抱える国民はこれまで以上に増加している。にもかかわらず、国はおろか国民からも「無駄」扱いされているというのが彼ら保健師の現状なのだ。