アメリカ民主主義「終わりの始まり」
この4年間、アメリカにいったい何が起こったのだろうか? 民主主義の原則を無視した国内政策、外交政策が採られ、アメリカが世界に誇ってきた価値観、品格が否定され、アメリカの名誉と威信が大きく傷ついた。
そのような状況をつくったのは、ドナルド・トランプ大統領その人であることは間違いない。数々の非民主主義的発言、政策を試みたが、そのほとんどが失敗に終わった。アメリカの国際的信用を大きく損ね、再選をかけた大統領選挙にも敗れたが、敗北宣言を拒否している。12月も末になろうとしているのに、ジョー・バイデン新大統領を認めず、承認を迫る民主党に反抗している。
大統領選挙後6週間、不正、八百長、謀略などと証拠もなく決めつけ、大金を使い、各選挙区の選挙管理委員会や市長、州知事をやり玉に挙げ、自分が勝利したと結果を変えさせようと試みている。
そんなトランプ大統領を支持してきた共和党だが、12月15日、ようやく上院議会共和党多数派のリーダーであるミッチ・マコーネル氏がバイデン氏の勝利を認める発表をした。だが、トランプ大統領にそんな気配はまったくない。
このことからマコーネル氏とトランプ大統領の間に亀裂ができたという見方もあるが、そうは思わないほうがよい。両氏の目的は共通で、それは次期大統領選挙に勝利することである。
政治的カオス状況が続くアメリカに新型コロナウイルスが襲い掛かり、現在アメリカは、歴史上経験したことのない苦境に陥っている。筆者が永住してから46年になるが、こんなひどいアメリカは見たことがない。
いったい誰が悪いのか?
筆者は、NYマンハッタンに暮らしている。新型コロナウイルスの攻撃の前に、ニューヨーク市はなすすべを知らなかった。12月22日現在、ニューヨークの感染者は38万人、死者は2万4000人をそれぞれ超えたといわれる。国全体では感染者は1800万人、死者31万人に達しているといわれるが、「真実」はわからない。それを知ることも恐ろしい。
ある日、長年通う歯科医院の待合室で順番を待っていると、1人の老婦人が入ってきた。マスクをし、マフラーで顔を覆っている。今ではマンハッタンでマスクをしていない人は、ほとんど見かけなくなった。
ソーシャルディスタンスを取るよう注意を促す紙が2脚の椅子の上に置いてあり、患者は2席分を隔てて腰かけなければならない。老婦人は、足元に注意しながら座ると、「まったくひどい大統領だ……」と、筆者につぶやくように話しかけてきた。