自分への恩赦は犯罪を認めるのと同義

さらに重要なことがある。ロシア疑惑に関することである。

この事件を担当したモラー特別検察官は、2019年4月に提出したロシア捜査報告書で、「現職の大統領は刑事訴追を免れる」という司法省の見解を受け入れるとしたうえで、「徹底的な捜査の後に、大統領が明らかに司法妨害をしなかったという事実に自信があるならば、われわれはそのように表明をする。事実と法的基準を基に、われわれはこの判断にいたることができなかった」とし、「報告書は大統領が犯罪をしたことを結論づけないが、容疑を晴らすものではない」と述べた。なんと甘い結論であろうか。

また、バイデン氏が恩赦をする可能性に言及する人もいるが、バイデン氏はすでに「大統領は、大統領を恩赦はできない」と明確にしている。

大統領の恩赦を認める法律は、この問題に対する結論を出すに十分ではない。あいまいなのである。

ひとつ言えるのは、トランプ大統領が自分に恩赦を与えること自体、自分の罪を認めることにほかならないということだ。「犯罪と認めている」からこそ「恩赦を考える」のである。

二面性の男

トランプ大統領の性格は、一時的に合理的かつナチュラルなコミュニケーションを可能にする。日本の安倍前首相、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長、ロシアのプーチン大統領などは、彼のリズムに乗ったため一時的には会話ができた。

だが、よい時はいいのだが、何かの拍子で悪くなると相手に対し決定的に冷たくなる。そして、自分の考えが認められないとか、自分がほめそやされないと感じると一気に不機嫌になり、アンフレンドリーとなり、悪口を言い始める。

側近になると、たまらない。絶対的な服従が強要され、自身にとってマイナスと判断した場合、即刻クビにする。反論するスタッフは許されないのである。トランプ大統領の下で、国家安全保障担当大統領補佐官であったジョン・ボルトン氏は、そのような状態に陥ってしまい、案の定クビになった。

しかし、これはリスクの高い解任だった。ボルトン氏はすぐさま本を書いて、トランプ政権の内幕を暴露してしまったのである。ボルトン氏は、名門イエール大学出身で、頭脳明晰な人である。

「トランプの復讐」は続く

さらに、トランプ大統領は、民主党のヒラリー・クリントン氏が国務長官時代に私用電子メールを使用した問題について、「オバマ前大統領もすべて知っていた」として、捜査対象とすべきだと主張し始めた。

佐藤則男『なぜヒラリー・クリントンを大統領にしないのか?』(講談社+α新書)
佐藤則男『なぜヒラリー・クリントンを大統領にしないのか?』(講談社+α新書)

バイデン氏に対しても、ウクライナ疑惑に絡んでいるといわれる息子ハンター氏の捜査に力が注がれることになるだろう。事実、検察当局が税金問題でハンター氏を捜査していることが明るみになった。

これらの事実が示すようにトランプ氏は、「復讐」にかけては、世界のリーダーの中で、誰にも劣らない情熱を燃やす人物なのである。大統領には再選し損ねたが、自分に咎めがあるなどとはみじんも考えず、負けたことに対する怒りと悔しさが彼の復讐心を掻き立てている。今後、さらなる行動に移ることは間違いない。

トランプ時代は終わったのだ。しかし、トランプ大統領は民主党を社会主義政党と決めつけ、今後も左翼を締め上げる動きを取り、拡大する新型コロナウイルスの黒い雲と重なり合い、人々の生活を危うくすることになる。アメリカ社会に暗い影が広がることを懸念するアメリカ人は多い。

各国もアメリカの先行きに対する懸念を深めていることは間違いない。なかでも対立が深まる中国は困惑しているだろう。

対中外交に関しては、筆者は、米中国交回復交渉に成功したヘンリー・キッシンジャー元国務長官にインタビューし、直接聞いた。外交交渉では、話し合いの大枠を時間をかけ決めること、そして十分な信頼関係を築いておくことが肝心とのことであった。果たして、バイデン政権に中国と互角に渡り合える外交官がいるかどうか。そこが決め手である。

答えは、新政権が発足して間もなくわかるだろう。筆者の見方は控えるが、交渉は難航するだろう。