メルケル首相が脱原発転換に利用した「福島がすべてを変えた」
その時、津波で大事故を起こした福島第一原発を見たメルケル首相の脳裏に名案がひらめく。脱原発である! ただ、シュレーダーの計画に自分が加えた修正を撤回するだけでは、自分の間違いを認めることになる。やるなら、さらにラディカルな脱原発にしなくてはならない。
その時、彼女が挙げた理由が、かの有名な「福島がすべてを変えた」だった。
こうしてメルケル首相は、地震も津波もないドイツという国の、世界一安全と言われていた原発を、2022年までにすべて止めると宣言したのである。
そして、この、ほとんど思いつきに近いエネルギー転換政策が国民を感動させた。彼らにしてみれば、40年来の夢がようやく実現するのである。当然、議員も浮き足立って付和雷同。脱原発法案はあっという間に国会を通過した。
以来、CDUは緑の党よりもグリーンになり、メルケルは惑星を守る指導者だ。こうしてドイツ人は理想に向かって突っ走った。
原発は減ったが代替の火力発電投入でCO2は減らない
あれから9年の歳月が過ぎ、福島事故当時に17基あったドイツの原発のうち、すでに11基が停止した。しかし、その代替に火力発電が投入されたためCO2は減らない。
一方、再エネ電気は潤沢な補助金のおかげで急増し、全発電量の4割前後を占めるに至ったが、お天気次第なので給電指令に応じられないのが致命的だ。
また、再エネの補助金は一般国民の電気代に乗っているので、今や電気代はEUで一番高い。ドイツの脱原発は、今のところ国益にはあまりつながっていない。物理学者メルケルが、これらを想定していなかったとは思えない。国民も次第に何かおかしいと感じている。それでも、メルケルはいまだに健在だ。