親亡き後の遺品整理は「初めての感覚」
親亡き後の遺品整理という行為を、A子さんは「初めての感覚」だと口にした。
「父親は酒癖は悪かったのですが、整理整頓をきちんとする人だったので、部屋はきれいなほうだと思います。それでも死後の“仕分け”という行為は大変です。調味料一つとっても、どうやって捨てればいいのかわからないものが多い。しかも使うために仕分けをするのではなく、すべて捨てるために分類をする。賞味期限の切れていない食品類やまだ使用できる洋服など、本来なら捨てなくもいいものを、廃棄するために仕分けするという行為が、虚しく感じます」
父親の酒癖の悪さで実家は安心できる家ではなかったから、帰りたいと思ったことがないから、できるだけ遠くに行きたいと思っていたから――だから、親が残した家を自分で片付けようとは思えない。
「けれど一方で、片付けるのは子供である自分の役割だ、自分しかいないという気もするんです」(A子さん)
結局A子さんは「1メートル四方の血の拭きとり」の5万円のみを業者にお願いし、家の中に残る両親の荷物は、時間をかけて自ら行うことを選択した。
さて次回は、「死後」ではなく、「生前」のゴミ屋敷の現場からリポートしよう。ゴミ屋敷の遺品整理は「汚い」「危ない」を乗り越える“体力勝負”の仕事なのだが、反対に依頼人が生きていてゴミ屋敷に住んでいる場合の整理は、作業員の“メンタル勝負”になる。依頼人が物を捨てさせてくれない場合が多く、終わりの見えない闘いだからだ。(続く。第6回は12月11日配信予定)