医療従事者に不足している「基礎知識」

性風俗産業で働く人達から、「性病検査に行ったら『そんな仕事するな』と説教された」という話を聞く経験は少なからずあります。

医者
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性風俗で働くシングルマザーの友人が子どもを健診に連れていった際、医師に風俗嬢だと話したら子どもを虐待しているのではないかと疑われ、「もう病院には行かない。怖くて行けない」と泣いていたのを受けて、次の健診に看護師として付き添ったこともあります。

彼女達の話を聞く度に、なぜ風俗嬢というだけで医療の平等から排除されなければいけないのかと、腹立たしい気持ちは着実に積み上がっていきます。

しかしその一方で、「医療従事者自身が性風俗で働く人々と日常の中で出会う機会を持たないが故に、性風俗産業自体が、どこか別の世界の話であるように思えてしまうのではないか」とも想像します。

実感を持てない遠い世界の存在としか認識できないのであれば、実在の人間としての対応ができないのも理解できます。

医療を行うための基礎として、性風俗産業の基本的な知識を我々は無視できないはずだと、私は感じます。

仕事中に性暴力を受けることも…

医療と関連の深い項目として、性風俗産業の中で発生する強制性交等罪があります。性器性交、性器挿入のことを性風俗業界では「本番」と呼びますが、そこには、「本番強要」という問題があります。

金銭の授受を伴う性器性交は(ソープランド以外では)法律で禁止されています。店の中に本番行為を行う女性店員がいると、客が他の女性を指名した際に「○○ちゃんは本番させてくれたのに」と強要し、トラブルを生む可能性があるため、店から在籍女性に対しても本番行為の禁止は厳しく言い渡されています。

しかし客の中には禁止されていることを知りながらしつこく本番をせがむ者や力ずくで挿入行為を行おうとする者もおり、2018年には群馬県で、ホテルに派遣された無店舗型性風俗店勤務の女性が、本番行為を断ったことで客の男性に切り付けられる事件が起きました。(*3)

本人の同意のない性器挿入行為は、店や業界のルールに違反しているだけでなく、強制性交等罪に該当します。外傷が生じた場合には、強制性交等致死傷罪としてさらに重い犯罪となります。

日本では、性暴力被害に対するワンストップセンターの拡大と共に、性暴力被害者の支援を専門とする看護師(性暴力被害者支援看護職・通称SANE)の養成が行われており、性暴力に対する関心は今後も高まっていくと思われますが、性風俗産業に従事する人が暴力被害に遭った際に適切に対応できる現場の人間がどれだけいるのか、私は懐疑的です。

「風俗嬢なのにレイプに遭った……?」と首をかしげる医療従事者の方が、圧倒的に多いのではないでしょうか。