「Sleepy Joe」(寝ぼけたジョー)と腐したトランプの敗北の本質

バイデン氏は77歳と高齢で、トランプ氏やオバマ前大統領などと比べると、カリスマ性はさほど感じない。しかし、以下のような点で、実は用意周到なコミュニケーション戦略を練っていたと考えられる。

①「秘すれば花」のギャップ戦略

能の大家、世阿弥の言葉に「秘すれば花」と言うものがある。「黙っているほうがいい」「目立たない方がいい」と解釈されがちだが、「本当の魅力や価値は、普段は秘めておき、いざというときに披露して相手を驚かせ、感動を勝ち取る」というのが、その本当の意味だ。

いつもはその才能を隠しておいて、いざというときに、圧倒的な実力を発揮して、評価を得るということ。そもそも、バイデン氏にとって、ある意味ラッキーだったのは、トランプ氏が徹底的に、「Sleepy Joe」(寝ぼけたジョー)などとバイデン氏をこき下ろしていたことだった。

つまり、「バイデンは年寄りで、まともな話もできやしない」というイメージを作り出し、ハードルを下げてくれていただ。しかし、ディベートなどで、その年歳とは思えぬ弁舌で、熱を込めて語るなど、「ボケたおじいさん」以上のパフォーマンスを発揮し、「案外やるじゃん」と安心した人は少なくなかった。つまり、そのイメージとのギャップ戦略が功を奏したというわけだ。

5日連続の反トランプ抗議デモに数百人が参加、2016年11月13日
写真=iStock.com/Bastiaan Slabbers
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②徹底的に敵失に乗じる

トランプ氏の最大の敗因は、自分の岩盤支持層に憑依しすぎたことだろう。彼は愛されることに貪欲で、自分を愛してくれる人の方にどんどんと考え方を吸い寄せられるところがある。ディベートの場で、バイデン氏と司会者がタッグを組み、トランプ氏を追い詰め、極右主義者と同調するコメントを引き出し、共和党の穏健派や民主党支持者たちの嫌悪感を極限まであおることができたのは、バイデン氏側にとっては非常にラッキーだった。

バイデン氏は時折、怒りを見せながらも、トランプ氏の挑発にも乗らず、乗り切った。あの場で、怒りを爆発させる、認知力の衰えがうかがえるような言動をしていれば、トランプ氏は容赦なく、攻め立ててきただろう。

一回目のディベートで、一方的にトランプ氏がまくしたて、場を支配してしまったことで、バイデン氏は逆に、ぼろを出さずに済んだとも言える。とにかく、大きな間違いをせず、相手の失敗を引き出す、という戦略は奏功したわけだ。

USA Today紙は「バイデンの戦略はトランプのやり方を踏襲しないこと」という記事の中で、「ミスをしがちなバイデンがやるべきことはただ、息をし、慈愛に満ちた表情を保つこと」と解説している。徹底的に、トランプにスポットライトを支配させ、その敵失を誘いだすことを優先させたのだ。