寿退社で起業! と思ったら……

これら3つを条件に、どんなビジネスがいいかを探していた星田さん。そのヒントは身近で見つかった。

リクルートのオフィスで。写真左端が星田さん
リクルートのオフィスで。写真左端が星田さん(写真=本人提供)

「会社で近くの席に、たまたま胸の大きい女の子がいたんですが、いつも『ジャケットのボタンがしまらない』と嘆いていたんです。『ボタンさえしめられれば、色も形もどうでもいいくらい』なんだと。それを聞いたときに、フルオーダーの洋服なら体形や年齢の違い、障がいも超えるという大義もあるし、コストを考えると大手が参入しづらいだろうな、と思いついたんです。利益率は低くても、けっこういいビジネスなんじゃないかと考えました」

プライベートでは、折しも結婚のタイミング。寿退社して起業することを考えていると当時の上司に話したところ「えっ?」と驚かれ、笑われた。

「『あなた、そんな小粒なビジネスをするために辞めるの?』って。『片手でリクルート、片手で起業と、両手で回しなさい。その代わり好きな部署に異動させてあげる。事業のことは会社で学べばいい』と言ってくださった。すごい懐の深さですよね」

「パラレルキャリア」という言葉すらなかった時代に、星田さんは新規事業を立ち上げる部署に異動し、事業の仕組みづくりを一から学びながら、洋服のフルオーダーメイドサロン「Fit Me Order made(フィットミーオーダーメイド)」を起業した。

「フィットミーは、創業当時、年4回の受注会で布選びや採寸をして申し込んでもらうスタイルだったので、忙しいのは受注会の1週間だけ。昼間はスタッフや母に手伝ってもらい、私も帰宅後には接客し、土日に検品や発送をしていました」

リクルートに勤務していたころの星田さん(中央)
リクルートに勤務していたころの星田さん(中央)(写真=本人提供)

リクルートで学んだことをフィットミーで活かし、フィットミーという接客の現場を回すことで見えてきた課題はリクルートで活かすことができて、まさにウィンウィンの形だった。とはいえ、会社員は組織の一員。仕事は自分だけでコントロールできるものではないはず。どうやって乗り切ったのだろうか。

「子育てしながら働く二足のわらじも、事業を育てながら会社で働く二足のわらじも、似たようなものだと思うんです。当時、私は子どもがいませんでしたから、事業を育てながら働く人がいても、いいんじゃないかと思っていました。今思うと、子どもがいれば、急に熱を出すこともあって時間が読めませんが、自分1人なら時間が読めるので、子育てしながら働く女性よりは楽だったと思います」

さらに星田さんは、結果を出す人にチャンスを与えるリクルートという会社と、水が合っていたと話す。

「結局、好きなことができるかどうかは、結果を出しているかどうかにかかっているんです。営業なら、絶対に目標の数字を超えるとか、お客さんとの関係を強く保つとか。新規事業なら、夢があって収益も狙えるとか。そこさえブレずに結果を出していれば、どんなスタイルでやっていてもチャンスは与えられるだろうと思っていました。逆に言うと、そこをやらないと好きなようにはできないということですよね」