作ったことがない企業から支援の手が
すると支援の手が挙がった。
三重県の水着メーカー、トーヨーニット、岐阜県の婦人服メーカー垂光などから「生産協力したい」と申し出があったのである。他に、宝和化学(自動車シートカバーの縫製)碧海技研(自動車シートの縫製)、フタバ産商(輸送用/イベント用シート製造)・岡川縫製(婦人服の製造)の各社が協力を買って出た。
そして、トヨタは生産調査部の人間と保全の人間を各社に派遣し、工程改善と機械の補修をして、生産性を向上させたのである。
1カ月後、工程を改善した結果、1社で1日500枚だったのが7社で1日に5万枚を作るまでになった。そして、さらにこの数字はなお増えているという。
重要なことは各社とも初めて防護ガウンの製造に挑んだことであり、しかも、この仕事は各社にとって新事業にもなりうる。防護ガウンは今後も必要になるし、これまでは中国からの輸入品が大半を占めていた。何より上記各社が防護ガウンを作る態勢を整えたことは、感染症危機に対処できることになる。
生産はしないが、別の形で支援する
医療用防護ガウンとともに、トヨタが生産性向上の支援をしたのが人工呼吸器だ。
人工呼吸器には大きく分けて2種類ある。ひとつはマスクを口に当てるタイプ。もうひとつは気管に挿管して使うタイプ。気管に挿管するためには手術が必要となる。
なお、人工呼吸器とエクモ(ECMO)は違うものだ。ECMOとは体外式膜型人工肺のことで、血液を抜き出し、体外にある人工肺で二酸化炭素を除去し、それとともに赤血球に酸素を付加して体内に戻す医療器械である。
危機のさなか、政府はトヨタに「人工呼吸器は作れないか」と打診した。政府の人間の頭にはアメリカのGMが人工呼吸器を作ったという事例があったのだろう。
だが、トヨタは「それはやめておきます」といったん返事をする。
「人の命にかかわることですから、ノウハウもないものにチャレンジして、かえってご迷惑をかけると大変です」
しかし、まったく協力しないわけにはいかない。
「ただし、現在、生産しているところへ行って、品質を上げる、量がたくさん出るようにすることはできます」
そこで、生産調査部のスタッフは他社も参加した混成チームを編成し、群馬にある日本光電という人工呼吸器を作る会社へ支援に出かけたのである。(つづく)
※この連載は『トヨタの危機管理』(プレジデント社)として2020年12月17日に刊行予定です。