利益の領域では「リスク回避」、損失の領域では「リスク追求」

【岩澤】なるほど。確認しましょう。今のCさん、Dさん、Eさんみたいな発想を、多くの人が持っていると思います。多くの人は、自分に利益が出ている、あるいは出そうな局面と、自分に損失が出ている、あるいは損失が生じそうな局面とで、行動パターンが変わってしまうようです。利益の領域では「リスク回避」なのですが、損失の領域では「損失回避」が基本原理で、「損失回避」をしようとするので、結果として「リスク追求」になります。そしてそれは、理性的なリスク追求ではなく(笑)、「自分は運がいいんだ」みたいな無根拠な信念に基づいた、少しおかしなリスク追求なのです。

カーネマンたちの第二の洞察はこの点、つまり「人間は利益の領域と損失の領域とで、非対称な判断を行う」というものでした。利益の領域では「リスク回避」ですから、資産の変化と心理的価値の関係が「上に凸型」ですが、損失の領域では「リスク追求」ですから、その関係は逆になって、「下に凸型」(※6)と呼ばれるものになります(図表5)。

プロスペクト理論(利益の領域と損失の領域で非対称的な反応)

※6 数学的には「凸関数(convex function)」または「下に凸関数」と呼ばれる。

(以下、後編に続く)

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