「100%10万円損」より「50%20万円損・50%損しない」を選ぶ
さて、カーネマンたちは、自分たちの主張(プロスペクト理論)と期待効用理論との違いを明確にするために、独自のグラフを作成しました(図表4)。期待効用理論のグラフが1象限しかないのに対し、プロスペクト理論のグラフには4つの象限があります。資産の水準ではなく、資産の変化によって、効用が影響を受けると考えたためです。縦軸は効用を示しますが、カーネマンたちの表現に倣ってこれを「心理的価値」と呼びます。また、原点を「参照点」と呼びます。
ここで【問題2】をレビューしましょう。
①次の二つの「宝くじ」のうち、どちらかを選べと言われたら、どちらを選びますか?
a| (100%, 100,000円)
b| (50%, 200,000円; 50%, 0円)
②次の二つの「宝くじ」のうち、どちらかを選べと言われたら、どちらを選びますか?
a| (100%, -100,000円)←aを選んだら「今すぐ100,000円を徴収します」という意味です。
b| (50%, -200,000円; 50%, 0円)
【問題2】は2つの設問に分かれていました。①「今すぐ10万円(a)」と「50%で20万円、50%で0円の宝くじ(b)」のどちらかを選ぶ、という問題。②はよく似ている問題ですけど、「今すぐマイナス10万円(a)」と「50%でマイナス20万円、50%で0円の宝くじ(b)」のどちらかを選ぶ、という問題でした。
皆さんの答えは「a-a」、「a-b」、「b-a」、「b-b」のどれかに当てはまるはずです。どれかに手を挙げてださい。
「a-a」の人?(少数が挙手)
「a-b」の人?(多数が挙手)
「b-a」の人?(誰も手を挙げない)
「b-b」の人?(ごく少数が挙手)
ありがとう。①はa、②はbという方がマジョリティのようですね。今度も多数派の方々にお聞きしましょう。なぜ「①はa、②はb」なのか、ですね。「①はa」というのは、既に議論した「リスク回避」で説明できます。0円になるリスク(b)を考えたら、手堅く10万円(a)を取りにいくんですよね。しかしではなぜ「②はb」なのでしょうか? リスクというのは「起こり得ることの幅の広さ」だ、という話をしましたが、②ではb(50%でマイナス20万円、50%で0円)のほうがa(100%マイナス10万円)よりリスクが大きいですよね。なぜ②でbなのか、そこを聞かせてください。
【D】②でaを選んだら確実に損失が出ます。これはイヤです。一方bを選べば、おカネがなくなるのを回避するチャンスがあるからです。
【岩澤】なるほど。損をするのを回避したい、ということですか?
【D】そうです。bでは半々の確率で損失がゼロですから。損失を回避できる可能性は結構あります。
【岩澤】そうか。確実に損失が出てしまう、というのがイヤなわけだ。
【D】「損失が確定してしまう」ってのがイヤですね。非常にイヤです。
【岩澤】「非常にイヤ」ですか。感情がこもってますね(笑)。あといかがでしょう。なぜ「a-b」なのか?
【E】私は株をやっているので非常によくわかるのですが、利益が出るときには利益確定したいです。一方、損失が出そうなときは損失を確定したくないです。
【岩澤】利益が出るときと、損失が出そうなときとでは行動原理が変わるわけですね。しかしEさん、②でbを選んでしまうと、50%の確率でもっと損が出るかもしれませんが、そこはいかがですか?
【E】自分は大丈夫だと思います(笑)。Dさんは20万円損をするかもしれませんが(笑)、私は大丈夫です。
【岩澤】相当都合いいですね(笑)。あと一人くらい聞いてみましょうか。
【E】自分は、こういう宝くじとかのとき、運がいいほうなんですね。だから②はbを選びます。損が出るのを避けられると思います。
【岩澤】Eさん、①ではaですよね。ご自分は大丈夫、運がいいんだ、というのであれば、①で「50%で20万円」を取りにいこうと思われないのですか?
【E】思いません(笑)。そこはむしろ「50%で0円」になったらイヤだな、と思います。