投資で成功する人はどんな思考回路なのか。名古屋商科大学ビジネススクール教授・岩澤 誠一郎氏は「株価が値上がりした場合、多くの投資家は頻繁に値段を確認し、利益が出ているうちに、それを確定させようとして、早めに売却する傾向がある。一方、値下がりした場合には、現在の値段を見ようとしなくなります。買った値段よりも下回る値段で売ることに強い抵抗感を感じるあまり、損切できずパフォーマンスの冴えない株式を延々と保有しがち」という。稼げる投資家は、こうした思考の癖をどのように克服しているのだろうか——。(後編/全2回)

※本稿は、岩澤誠一郎『ケースメソッドMBA04 行動経済学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。

例えば「80%の確率で10万円獲得or20%で1万円しか得られない」より「今すぐ8万円を獲得できる」を選ぶ人が多い。一方、「今すぐマイナス10万円」より「50%でマイナス20万円or50%で0円」を選ぶ人が多数。このようにお金が得られる時、人は「リスク回避」の行動をとるが、お金を失う時は逆に「リスク追求」の行動をとりがちであると、「プロスペクト理論」は指摘する。

1万円の損失を補うにはX万円の利益がなければいけないか

(【問題1、2】を解説した前編から続く)

【問題3】にいきましょう。

【問題3】
a|(50%, X円; 50%,-10,000円)
b|(100%, 0円)←bを選んだら「何も起きない」という意味です。
あなたはXがいくら以上であったら、選択肢aを選びますか?

「50%の確率でプラスX円、50%の確率でマイナス1万円」の宝くじを買いたくなるためには、Xがいくら以上でないといけないかという問題です。皆さんのお答えを聞いてみましょう。

【F】5万円。
【G】5万円。
【H】2万円。
【I】1万円。
【J】10万円。
【K】20万円。
【L】100万円。
【M】2万円。
【N】3万円。
【O】5万円。

【岩澤】ありがとう。Lさんの100万円が一番大きいですね。Lさん、マイナス1万円、イヤですか?

【P】イヤです。本当は100万円でもイヤです(笑)。

【岩澤】なるほど。この皆さんが答えてくださった金額が何を表しているか、わかりますよね。50%の確率で1万円失うかもしれない、それは誰にとっても「イヤ」ですよね。ここに書かれた金額はその痛みを補うための、痛みの価格なわけです。皆さんの心の痛みは結構大きいようで(笑)、中央値が5万円です。1万円の損失を補うには、5万円の利益がなければいけない。損失の痛みは大きいので、それを補うには、損失を上回る利益がなければいけない、というところがポイントです。

カーネマンたちは、似たような実験を繰り返し、ある金額の損失による心の痛みは、同じ金額の利益による心の喜びの1.5~2.5倍であると議論しています。そしてこのポイントを加えたものが、プロスペクト理論(※1)のグラフの完成形になります(図表1)。

図表1では原点——参照点と呼びます——のところでグラフが折れていて、1万円の利益に伴う心理的価値と、1万円の損失に伴う心理的価値とを比べると、後者のほうが大きいことを示しています。

※1 (※)プロスペクト理論:お金が得られる時、人は「リスク回避」の行動をとる一方、お金を失う時は「リスク追求」するなどといった、人々の選好の実証的な傾向を示す理論。