なぜ、株価が下がると塩漬けにしたくなるのか

次に【問題5】にいきましょう。

【問題5】トヨタ自動車の株価チャート(図表3)を見て、問いに答えてください。あなたが2015年7月、トヨタ自動車の株式を8,000円×1,000株=800万円で購入したとします。その後株価は冴えない動きとなり、2016年7月には一時5,000円を割り込みます。その後株価は戻し歩調になり、2020年2月には8,026円まで株価は戻りましたが、直後に新型コロナウイルスの危機が発生し、2020年4月時点では6,600円です。2015年7月以降、あなたはトヨタの株式が何円になったときに売却していたと思いますか? それとも現在も保有したままだと思いますか?

今度は、買ったタイミングが2015年7月、株価が8,000円のときでした。今Sさんが説明してくれたように、残念ながら、そこから株価は下がってしまいますよね。そして現在も8,000円台は回復していない。株を買うときには、みんな上がると思って買うわけですが、意に反してこうなってしまうこともありますよね。さてそのとき皆さんはどうされたでしょうか。今度も同じ質問をします。

「現在までに売却してしまっただろう」と思う方は?
(約30%が挙手)

「現在も保有したまま」と思われる方は?
(約70%が挙手)

先ほどとは対照的に、「現在も保有したまま」の方が多いですよね。その方々にお聞きしましょう。なぜ保有したままだと思うのか教えてください。

【T】いやもう、単純に8,000円で買って、8,000円より下で売るのはイヤだと思うんで、ずっと持ったままだと思います。

【岩澤】なるほど。やはり「損失回避」ってことですかね?

岩澤 誠一郎「ケースメソッドMBA04 行動経済学」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
岩澤 誠一郎「ケースメソッドMBA04 行動経済学」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

【T】そうですね。損しているところで売ってしまうのは、なんか惨めな気持ちになるので、やりたくないです。

【岩澤】わかりました。他の方はいかがでしょうか。

【U】Tさんと同じですが、とにかくマイナスは回避したいですから、8,000円より上がるのをひたすら待ちます。それで、途中で下がっていますが、それほど下がっているわけじゃないですよね。もっと大きく下がっていれば、諦めて売っていると思うんですが、諦めるような水準じゃないんで、上がるのを待つと思います。それにトヨタですからね。いつかは上がってくるんじゃないかと。

【岩澤】トヨタだからというのもあって、上がるのを待つのだけれど、やはりその前に「とにかくマイナスは回避したい」というのがあるわけですよね。