でも、やはり最後は自己実現動機なのではないだろうか。自分がなってみたい自分、自分がつくりたい世界、目指す将来像。そうしたものをつくろうと動機づけられているときに、人々の意欲は最も強く、また長続きする。
それだからこそ、今回のような状況では、リーダーの役割としては、どこかで、人々の目標を、安心・安全への復旧を目標だとする段階から、より大きな何か実現したい何かへと移行させることが必要だ。経営学ではビジョンとか理念とか言われる概念と対応する。
これがないと、人々のモチベーションは長続きしないし、また人々は、安心と安全のなかで安住する。人々を安心と安全に埋没させては、今回の災害からの復興はありえないのである。
ちなみに、私は素人ながら、この震災をきっかけに、東北地区の一大産業圏としての再開発を狙うというのもあるかもしれないと思っている。長い年月をかけて完成させた高速道路および鉄道の南北の大動脈を根幹としての工業、農業、水産業が統合的に発達した地域を目指すのである。
東北はこれまでわが国ではやや発展が遅れた地域であった。例えばその結果、故郷が大好きな若者が東北に就職できず、首都圏などに流出してしまうという状況があった。やや不謹慎な言い方かもしれないが、今回の震災をきっかけとして、新たな東北を目指すのである。
内容の妥当性はさておいて、今の日本のリーダーはどうだろうか。安心と安定を供給するリーダーとしては及第点でも、国民に夢と希望を与えるリーダーとしてはどうなのだろうか。
今回の震災では、このことの意味を深く考えさせられた。東日本大震災からの復興はこうした夢がなくては進まない気がする。また、それが今リーダーに求められる課題で最も大きなものかもしれない。
(平良 徹=図版作成)