父親の遺産相続完了、母親は脳梗塞で憎まれ口も減ったが……

父親の預金や証券などの凍結解除や名義変更手続きは、行政書士の助けもあり、2019年にようやくすべて完了。

母親は、介護老人保健施設で3年過ごし、今年の4月末に有料老人ホームに入所。コロナの影響でしばらく面会できなかったが、9月に脳梗塞を起こしたため、10月には会うことができた。

「久しぶりに会った母は弱々しく、口数が減り、憎らしい口もきかなくなっていて、正直ほっとしました」

父親がある程度遺産を遺していたことが分かり、金銭的にも多少の余裕ができた。

「まともな親の介護だったら、やりがいや喜びもあったかもしれません。しかし自分の両親は毒親だったので、全くありませんでした。有料老人施設に入れてからだいぶマシになりましたが、それまでは毎日不愉快で、自分の心身を悪くする一方でした。今でも『なんで私が介護をしなければならないんだ?』と思うことはしょっちゅうです。でも無責任にはできません。もっと無責任に生きてもいいのかなって思うこともあるんですが……」

うつ病の治療を続けるなか「来週は水族館でデートなんですよ」

現在も高橋さんは、大きな不安感や希死念慮、服薬の副作用による倦怠感や眠気、フラッシュバックなどに頻繁に襲われ、うつ病の治療を続けている。

「今後、私のようなシングル介護は、介護者の心身の疲労、社会的孤立、貧困、将来への不安感などにより、共倒れや心中、逃避する家族が増加し、ますます深刻化してしまうかもしれません……。介護の話は介護をしていない人にはしづらいので、介護者は孤独感や不安感に苛まれがちです。私は、働いている頃は時間的に参加が難しかったのですが、退職後は介護者の集まりに顔を出し、情報交換に努めました。また、片道2時間の通い介護は大変でしたが、母と離れることで、自分の時間が持てたのは良かったと思います」

若い頃に楽器をやっていた高橋さんは、休息時は静かな音楽を聞いて過ごした。

「母を有料老人施設に入れてから、心に余裕ができたのか、ようやく抗うつ薬の効果を感じられるようになりました。また、価値観の近い異性と何人か知り合い、一緒に食事をするようになりました。この年齢で恥ずかしいですが、束縛しない関係のパートナーができたらと夢見ています。来週は水族館でデートなんですよ」

ジンベエザメ
写真=iStock.com/Aonip
※写真はイメージです

そう言って高橋さんは笑った。

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