飼っていた猫が死に、父親も死んだ

大学卒業後、編集プロダクションや小さな出版社を経て、団体職員として働き始めた高橋さんは、実家を出て都内で一人暮らしを開始。高橋さんがいなくなると父親の暴言や暴力は、母親に集中した。

しばらくして両親は、猫を飼い始める。

「私が5歳くらいの頃、やはり知人から父が猫をもらってきたことがありましたが、『家具に傷がつく!』と言って捨てました。でも、このときは、『子育てには失敗したけど、猫はちゃんと育てる』と言って、両親とも猫を溺愛。猫でかわいがり方を学んでから子どもを育ててほしかったと思いましたが、この頃がわが家の最も平穏なときだったように思います」

猫
写真=iStock.com/ramustagram
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猫が来てからは、父親が母親に暴言を吐いたり暴力をふるったりすることがなくなった。

父親は1989年に60歳の定年を迎え、再雇用になった後、1994年に完全定年。自宅にいる時間が増えたが、猫の存在のおかげで両親の関係が険悪化することはなかった。だが……。

2001年春、「胸が苦しい!」と父親が訴えたため、病院を受診したところ、狭心症と診断。手術を受け、詰まっていた血栓を取り除いた。

母親の料理がしょっぱすぎたり、甘すぎたり……

やがてかわいがっていた猫は、2004年に死亡。これを機に、再び父親による母親への暴力や暴言が始まる。30代前半となった高橋さんは、当時、実家にはお盆と年末年始くらいは帰省していたが、2005年ごろ、母親の作る料理が、しょっぱすぎたり、甘すぎたりするだけでなく、言動がおかしいことに気づいた。

時々母親と会っていた母方のおばが、「もしかしたら認知症なのではないか?」と父親に話したが、「そんなわけないだろう、言っていいことと悪いことがある!」と激怒して聞く耳を持たなかった。

そして2010年。父親が自宅の布団の中で死亡しているのを母親が発見。救急車を呼んだため、警察に届けられた。

警察病院で調べたところ、死因は心不全。父親は亡くなってから丸1日経っており、冬場で暖房をつけていたため、すでに腐敗が始まっていた。81歳だった。

父親の葬儀後、母親は50万円ほどあった香典を銀行に預けに行って、どこかに置いてきてしまった。

「今思えば、母はとっくに認知症になっていたのだと思います。これから私が一人で介護しなければならないのかと思うと、絶望的な気持ちと孤独感に襲われ、途方に暮れました……」