衛藤氏の代名詞の「一院制」は衆参両院から総スカン

衛藤氏の代名詞となっているのが「一院制」だ。衛藤氏が一院政導入論者であることを党内で知らない者はいない。もちろん、一院制を目指す議連も立ち上げてきた。

内外の課題が山積し、スピーディーな政策決定が求められる中、一院制の議論そのものは否定するものではない。しかし、実現するためには憲法の改正が必要だ。そして、現職の国会議員にとって、二院を一院にするのは自分たちの大リストラを意味する。よほど信念に基づいた一院政論者でない限り、この論には反対だ。

だから、衛藤氏の憲法観は異端ということになる。衛藤氏は今、本部長として自ら一院制を手掛けようとしているわけではない。ただし、衛藤氏といえば一院制という印象が強いので、彼が憲法について動くと皆、身構えるのだろう。

スタンドプレーが目立つ一院制論者。そんな衛藤氏が改憲論議の舵を取ることになった。案の定、衛藤氏は改憲推進本部に起草委員会を立ち上げ、自ら委員長に就任した。今後、週に2回ペースで改憲原案づくりの議論を進めることになる。

だが自民党だけで議論を加速すると、国民投票法改正案を含む今回の論議に重大な支障が生まれかねない。憲法問題で野党が反発すれば、その他の国会運営にも支障が出る。森山裕党国対委員長ら党執行部は「余計なことをしている」と不快感を隠さない。

国会議事堂と高層ビル
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改憲は「後回し」となるはずだったのだが…

推進本部の事務総長で衆院憲法審査会の与党筆頭幹事を務める新藤義孝氏も8日の記者会見で「自民党が新たな案をつくるというように誤解されるのはやめてほしい」と発言。形の上では記者団に苦言を呈して形だが、どう見ても衛藤氏の暴走にくぎを刺そうとしているようだった。

そもそも起草委員会の立ち上げは、衛藤氏自身の判断で行われたもの。同日の会見で「菅総裁からの支持は全くありません」と悪びれず認めている。

菅氏は安倍政権の基本方針を継承することは繰り返し明言している。しかし、その優先順位は変わる。菅氏は、携帯電話料金の引き下げや不妊治療の保険適用など、国民生活の実利になるようなものの実現を最優先する。相対的に安倍氏が進めてきた安保法制などの国のかたちを変えるようなものは、後回しになる。改憲も後回しになる項目になると考えられていた。

実際、菅氏もそう思っていたのだろう。今回の党改憲推進本部長の人事だけは「なぜ衛藤氏なのか」と首をひねる議員が少なくなかった。練りに練って人事を断行する菅氏としては珍しい。憲法問題の優先順位が低かったからかもしれない。その人事の結果、改憲論議が突出して進められることになるとすれば、予想外の展開となる。