HISは苦しいが増資で財務内容の強化
それでは、個別の会社の状況を見てみましょう。業界首位のJTBは非上場なので、上場会社ほどの詳しい数字は分かりません。ただ、観光庁が発表する各社別の旅行取扱状況を見ると、JTBの場合、今年の7月で海外旅行は前年の12%程度、国内旅行も29%、全体でも18%程度の取扱額なので苦しい状況が読み取れます。
HISの財務内容を見てみましょう。
同社は10月決算ですが、直近の四半期である5~7月の数字を見てみましょう。図表2の数字ですが、売上高は前年同時期に比べて71%の減少です。営業利益(=売上総利益-販売費及び一般管理費)は、第3四半期(5~7月)の3カ月で153億円の赤字となっています。2019年11月から2020年4月までの半年間での赤字額は15億円ほどでしたから、やはり、緊急事態宣言の影響は極めて大きかったと言えます。
また、2019年10月末と2020年7月末の現預金残高を比較すると、減少額は約1200億円、受取手形・売掛金や営業未収金の減少額は350億円です。これまでのところ、赤字分の資金繰りをそれらでつけたということです。
一方、現預金残高とともに短期的な安全性を表す「流動比率(=流動資産÷流動負債×100%、1年以内に現金化できる資産が、1年以内に返済すべき負債をどれだけ上回っているかを表す指標(※)」は150%が171%に上昇しています。流動資産、流動負債を急激に減少させたことによるものですが、安全性の確保に努めていることが分かります。
※会社の規模や業種にもよるが、流動比率120%以上なら短期的な資金繰りには困らないが、100%を下回っていると支払能力に不安があると言われる
さらに、中長期的な安全性を表す「自己資本比率(=総資本に対する自己資本の比率)(※)」はもともとの水準がそれほど高くはありませんが、わずかながら上昇しています(16.8%→17.6%)。これも、資産を圧縮していることが影響しています。
※数値が高いほど財務的には安定。会社の規模や業種にもよるが、50%以上あればかなり良好な状態といえ、少なくとも30%程度は確保しておくとよいと言われる
しかし、今後、このコロナの状況が続けば、この売り上げの急減や大幅な赤字がもっと悪化すると判断したHISは10月に入り、香港のファンドなどを対象とする第三者割当増資や新株予約権の発行を行い約220億円の資金調達を行うと発表しました。
同社は2020年10月末には318億円の最終赤字を見込んでおり、増資などがなければ、自己資本比率は14%台に下落する予定でしたが、この増資などにより16%台を維持する見込みとなっています。