ソフトバンク孫正義会長が口癖だった「低料金」を口にしなくなった
日本では2006年ごろから急速に通信費の家計負担が増加しているが、これは携帯電話会社の寡占の進行が影響していると見ていいだろう。
携帯電話の分野で競争が始まった1990年代半ばには、大都市圏では7社が競合していた。その後、事業者の淘汰が加速し、2006年にソフトバンクがボーダフォンを買収し、大手3社の寡占体制が生まれた。それ以降、通信費の対GDP比は大きく上昇している。
寡占事業者の仲間入り後、ソフトバンクの孫正義氏は、そこに至るまで口癖だった「低料金」を口にしなくなった。孫氏がADSL事業への参入などで通信業界の既得権益を打破していた時期には、他国と比較して高くなることが抑えられていた通信費負担が、孫氏の寡占仲間入りが実現した以降は、そうした歯止めが効かなくなり、消費者への大きな超過負担が是正されなくなった。
ドイツでは2010年から通信費負担の低下がはじまっている。ドイツでは通信基地局などの設備を大手から借りて通信サービスを展開する仮想移動体通信事業者(MVNO)が、政府の促進策もあり、シェアが5割近くにまで増えたと言われる。このため、大手MNO(設備をもつ移動体通信事業者)も対抗策として大きく値下げしたことが影響していると思われる。
(注)日本では格安スマホ会社がMVNOに当たり、MNOはドコモ、au、ソフトバンクの3社である。楽天が最近MNOとしてのサービスを開始している。
フランスでは2011年から通信費負担の低下がはじまっている。こちらはMNO自体の増加によるものと考えられる。フランスでは2012年に第4の事業者が既存事業者の半分以下の料金プランを投入して市場に参入し、一気に競争が激しくなり、料金も大きく値下がりしたと言われる。
ドイツ、フランスに比して、英米では逆V字カーブの起伏が小さくなっており、通信サービスをめぐる競争環境に市場メカニズムの働きの効果が認められよう。
企業間競争のなさ、政府の無策が災いして通信費負担が高いまま
日本ではこうした諸国と比べて競争環境上の不備や政府の無策が災いして通信費負担が高止まりしてきたと考えざるをえない。
2018年の日本の家計通信費は10兆7000億円であり、対GDP比は1.96%である。もし4割これが軽くなるとすると1.18%となる。これは主要先進国の中位水準にほぼ該当する。つまり、4割の携帯電話代削減は、通信費をめぐる競争環境が主要先進国並みに近づけば可能だと判断することができるのである。