警察庁の犯罪統計によれば、緊急事態宣言が発せられた2020年4~5月以降、「窃盗」などの犯罪認知件数は対前年比で減少だったが、「殺人」は増えている。統計データ分析家の本川裕氏は、「殺人事件の被疑者の半数は親族です。コロナの流行で外出を控え、自宅にいる時間が長いほど発生する可能性は高くなる」という——。

意外? コロナ禍の社会不安の中で減少している犯罪件数

新型コロナウイルス感染症の流行でわれわれの生活は大きく変貌を遂げている。

感染防止のためにマスクを常用し、また外出を控え、人との触れ合いを極力避けるようになった。自宅にいることが多くなり、リモートワークが増える一方で、自宅で何でも済ませる巣ごもり消費が拡大している。

今回はこうしたコロナ禍による生活変化がどのような側面で社会不安を高めているのかを警察の統計などからフォローしてみよう。

図表1には、「社会不安」関連の主要指標を4つ掲げ、対前年同月増減を2019年1月から2020年9月あるいは10月まで追った。

まず、外出を控える行動パターンは経済面での萎縮を全体的に惹起することとなり、めぐり巡って国民の経済不安、生活不安を高めている。

今後、半年間の展望について全国の世帯に聞いた「暮らし向き意識」の結果を見ると、昨年10月の消費税引き上げに向けて毎月「悪化」が続いていたが、2019年11月からは何とか回復への方向が見られた。ところが、コロナの流行が本格化した2020年3月から悪化が目立つようになり、緊急事態宣言が発せられた4~5月には、消費税引き上げに伴うマイナスを大きく超えて悪化した。

もっとも6~7月には暮らし向き意識は改善し、9~10月には昨年と比較してプラスに転じている。あまり深刻になりすぎないというウィズ・コロナの意識へと転換しつつあるものと見られる。

自殺者数は4~5月は対前年比で減ったが、7~9月は増えた

しかし、経済の実態は、飲食店や観光、運輸の分野を中心に落ち込みが続いており、この点が失業者数の動きにみられる。失業者数は前年と比較し本年5月から大きく増加しており、8月には50万人の増となっている。

警察がとりまとめている自殺者数については減少する月が多く、緊急事態宣言が発せられていた4~5月はさらに減少幅が大きくなっていたが、その後、経済の悪化も影響して、改善から悪化へと傾向が逆転し、7~9月には3カ月連続で対前年増となっている。

失業者数と自殺者数の動きは相関する場合が多いが、実は、月別の動きが連動したのは、1997年秋の三洋証券、北海道拓殖銀行、山一証券と立て続けの大型金融破綻事件をきっかけに両方とも激増して以降はじめてである。例えば、リーマンショック後の不況の際も、失業者数は増加したが自殺者数は増加しなかった。

以上のような指標の推移は、明らかにコロナ禍で社会不安が高まっていることを示しているが、社会不安の最も代表的な指標である犯罪件数の動き(認知件数の動き)を追うと、実は、コロナの流行と並行して、むしろ、減少している点が目立っている。

昨年の1月から今年の3月までは、ほぼ、対前年5000件の減少で推移していた犯罪認知件数は、緊急事態宣言が発せられた4~5月以降はほぼ1万5000件の減少と大きく治安の改善を示しているのである。

この点は、マスコミでも報じられることが少ないが、重要な動きと見られるので、次に、どのような犯罪が減っているのかを調べてみよう。