副作用が少ないはずが数百人の死者が発生
また、重い副作用が少ないはずの分子標的薬で、国内で数百人の死者が出た可能性があると問題になったのが、ゲフィチニブ(製品名イレッサ・写真D)だ。これはがん細胞の増殖に関わるEGFR(上皮細胞成長因子受容体)を標的とする肺がんの分子標的薬だ。
国内では世界に先がけて02年に承認されたが、直後は対応が後手に回り死者の報告が相次いだ。日本人は欧米人よりも約3倍の効果が期待できる代わり、副作用の間質性肺炎の発症率が欧米人の約20倍であることが判明。さらに、EGFR変異株を持つ患者では8割前後に効き目があるが、それ以外の患者ではリスクが利益を上回ることがわかっている。今は前者のみ(日本人肺がん患者の約3割)に投与が推奨されている。
このように、その有無で薬の効果や副作用を予測する分子を「バイオマーカー」と呼ぶ。いわば、カオスのようながんを紐解く道標のようなもの。バイオマーカーを治療前に調べることによって自分に適した治療薬を選択することができるのだ(図2)。
逆にこれだけ厳然とした仕分けで新薬に効果がないと判定されるとシュンとしそうだが「自分にとって危険なだけの治療に貴重な時間を奪われることなく、速やかに次の手段をとれる」(腫瘍内科医)。保険適応されているバイオマーカーもあるので、事前に調べておくと治療に役立つ(図3)。
がん薬物療法が一般臨床に登場してから、半世紀以上が過ぎた。現在、基礎研究も含め、開発途上の分子標的薬が800あるともいわれている。「夢の特効薬」とまではいかなくても、近年の飛躍は特筆すべきだろう。「がん薬物療法の可能性はどんどん広がり、数年前なら諦めていたようなケースでも希望が持てる。肝心なのは、極端に悲観的にも楽観的にもならないこと。今現在の最善をつくし、次の変化を冷静に待つ姿勢を持ってほしい」(西山氏)。
※すべて雑誌掲載当時