【がんワクチン】
臨床データを示せなければ「第2の丸山ワクチン」に

「第2の丸山ワクチンにしないでくださいね」

高度医療評価会議の委員の1人は一時期、がんペプチドワクチンの臨床研究を実施しているグループのメンバーに対し釘を刺したという。「がんペプチドワクチンは、臨床試験で有効性を示せず、薬事法で承認されないまま、巷のクリニックで高額な料金で処方されていることが問題。このままでは丸山ワクチンと同様に法の埒外になってしまう」。

現在、自由診療の名目で行われているがんワクチン療法は1回数万~十数万円が相場。保険は使えないので、総費用は軽く100万円を超える。また、万が一薬害が起こったとしても、薬事法の埒外であるため被害者救済制度を利用できない。

そもそも、がんワクチンとはどんな薬のか。簡単に言うと、体の免疫システムを利用して人為的に「がんキラー」を作りだし、がん細胞を攻撃させる方法。がん細胞の増殖に必要なタンパクや細胞表面に出てくるペプチドを体に注入すると、免疫システムが「異物」として認識する。それにより、体内の「キラーT細胞」が、ペプチドを表面につき出しているがん細胞を「敵」と認識して攻撃しはじめるのだ。がんを縮小するパワーがあるかについては懐疑的な意見が多いが、再発予防効果は期待できるようだ。

がんワクチンの課題の1つは、統一された評価基準と厳密な計画の下での臨床試験データに乏しい点だ。科学的根拠に基づく医療が定着した現在、あいまいな根拠による承認はありえない。

国内では現在、膵がんについて新生増殖血管因子を抗原とするがんペプチドワクチン「OTS102」が医師主導の臨床試験で集積されてきたデータを元に、製薬企業による承認に向けた臨床試験を実施中。同ワクチンは、がん細胞に栄養と酸素を供給する血管の新生を阻害して膵がん細胞の増殖を抑える効果があり、抗がん剤のゲムシタビンとの併用療法で生存期間の延長が期待されている。

膵がんは難治性がんの代表で、再発後は唯一、治療効果が認められているゲムシタビンでも、約半年から1年の延命効果が期待できるにすぎない。がんペプチドワクチンを心待ちにしている人は多い。臨床試験の結果が待たれる。