「男性にも、充実した家庭生活を送る権利がある」
フランスで「男の産休」について調べ、話を聞くと、必ず行き当たる表現がある。まず「男女平等のために」、次が「男性にも、充実した家庭生活を送る権利がある」だ。
世界的に見て、育児関連の休業は、女性に偏ってきた歴史的経緯がある。「男は仕事、女は家事育児」の性別役割分担の強固な影響があり、育休制度自体が女性向けに整えられてきたこともある。フランスも同様で、その偏りの是正が父親産休導入の論拠の一つとされたことは前述した。父親だけが取得できる子育て関連制度が必要なのは、そうでもしないと、仕事と家庭の両立の負担が女性に偏り続けるから。しかしフランスでは、その偏りの是正が「男性のため」であることも、必ず同時に強調されている。
「男は仕事」の固定観念は、必然的に、男性を家庭から遠ざける。その分、配偶者ともわが子とも、関係を育む機会や時間が奪われる。そうした父親たちにとって、家庭は安らげる場所ではなくなってしまう。父親産休は、男性たちが性別役割分担によって奪われてきた家庭生活を、その手に返すものでもある、という考え方だ。
父親産休の施行から1年後の2003年、フランス連帯保健省の政策研究・統計評価局が行ったヒアリングによると、取得者からのコメントには「気が付いた」という表現が頻発したそうだ。「何に」については、父親の役割、家族の新しいバランス、生活の中での家事の重要性などが挙げられた。
2週間という短い期間は実際、育児スキルを身につけるのに十分とは言えない。しかしスキルを得るのに不可欠な「主要養育者としての自覚」を持つには、確かに役立つ。父親と母親の平等を、タスクの負担だけではなく、子どもとの関係においても改善するために。
フランスの「男の産休」は国が主導したものだが、そのメリットは多角的に認められ、社会に受け入れられているのだ。
今の日本にこそ、「男の産休」は必要だ
この原稿を執筆している2020年初秋現在、日本でも、フランスと類似の父親産休の導入が議論されている。そのメリットは、性別役割分担意識がフランス以上に強固な日本では、より如実に表れるだろう。
日本でこの制度を取り入れる意義を、疑問視する人々もいる。日本の労働文化や家族観では普及が難しいという人もある。しかし筆者は、今の日本にこそこの制度は必要であり、十分に普及可能であると感じている。それは上に述べてきたフランスの「4つの理由」を参考に、日本の社会性や文化的背景をふまえて考えた結論だ。
2の制度面は日本でもほぼ同様で、企業側に追加の財政負担はない形に設計できる。4の男女平等を求める声も、特に20~40代の子育て世代を中心に、年々強くなっている。実際、日本の父親産休制度は、推進する有志議連や団体の顔ぶれを見ても、男性と女性がタッグを組んで進めているのが分かる。違いとして立ちはだかる壁があるとすれば、1の「休業しやすい文化」と3の「子どもを大切に考える社会通念」だろう。