日朝首脳会談実現に向けて日本は食糧援助を申し出た
菅長官の訪米では、もうひとつ非常に重要な会談がセットされていました。もちろん、これは日本のマスコミでは1行も報道されていません。つまり、極秘会談です。
会談の相手は、北朝鮮の国連大使を務める金星(キム・ソン)氏。
北朝鮮の国連代表部は現在に至るまで、同国とアメリカが接触する場合の主要チャネルです。そのトップを務める国連大使が重要ポストであることは論を待ちません。日本が北朝鮮と交渉する場合はこれとは異なるチャネルがあるはずですが、菅長官が金星氏と会談したということは、米朝首脳会談の進展に絡んで、日朝の間でも重要な話が進んでいることを意味します。
しかも、菅・金会談を仲介したのは当のアメリカではなく、中国の習近平主席だったという外務省筋からの情報もあります。外交というのはまったく奇々怪々な代物ですが、これが意味するところは東アジア情勢が相当に煮詰まっているということです。
このとき菅長官は金星氏に対し、北朝鮮への食糧援助を申し出たといわれています。
北朝鮮はいま記録的な干ばつです。2019年1月から5月15日までの期間の降水量は国内平均でわずか56.3ミリしかなく、これは最近100年間で記録的に少ない数字です。
北朝鮮国内の食糧供給の状況を追跡している国連世界食糧計画(WEP)は、住民1000万人超が食糧不足を感じており、これらの住民は次の収穫まで十分な量の食糧を確保することができないと発表しました。WEP調査団の予想では、干ばつが原因で今年も不作がつづいた場合、数百万人の国民が飢餓に見舞われるとしています。
そこで菅長官は金星氏に、日本の備蓄米で食糧を支援し、それをきっかけに日朝の交渉を行うということを提案したといいます。
日本には現在、もともと北朝鮮への支援物資だったコメ12万5000トンと医療品300万ドル分が倉庫に眠っています。これは、2004年に龍川(リョンチョン)駅で列車爆破事故が起き、北朝鮮が深刻な人的・経済的被害を被った際に、日本が供与を約束したコメ(25万トン=70億円相当)と医療品(600万ドル)のうち、拉致問題が進展しなかったことで棚上げされた半分です。
菅長官が得た金星氏という「日朝をつなぐ」太いパイプ
安倍首相は日朝首脳会談に意欲を燃やしていますから、まさに棚上げ物資を動かす好機到来です。そこで安倍首相は、この話をまとめる力は菅長官にしかないと考え、自らの名代としてアメリカに送ったのでしょう。
北朝鮮への日本の食糧支援は、本書執筆中の2019年9月時点では、まだ動いていません(編集部註:2020年9月8日時点も動いていない)が、日本にとって大きいのは、菅長官が得た金星氏という太いパイプです。
いまはまだどうということはないかもしれませんが、菅長官にとって、このパイプは後々大きな存在になるのは間違いありません。私にはこれが、安倍首相から菅長官に手渡されたバトンのように見えます。
「ポスト安倍」について、最近(編集部註:昨秋頃)マスコミは折に触れ、さまざまな政治家を次期総理大臣候補として話題にするようになりました。
しかし、私の見立てでは、現在のところ菅長官が最右翼に位置しています。なぜなら、安倍首相は菅長官に傷がついては困ると考えて、W選挙を見送ったからです。