1年以上前に「次期首相候補」の存在感を国民に示した安倍首相

発端は、5月4日に行われた北朝鮮のミサイル発射実験でした。

6日には安倍晋三首相がトランプ米大統領と電話協議を行い、条件をつけずに日朝首脳会談実現を目指す考えを伝えました。その後、安倍首相は記者会見を行い、北朝鮮の金正恩委員長との会談について「私自身が条件をつけずに向き合わなければならない」と強調、これまで示してきた「拉致問題の解決に資する会談をしなければならない」という方針を転換しました。強硬姿勢を貫いていた安倍首相が、金正恩委員長に向かってボールを投げたのです。

その翌7日の官房長官の記者会見では、政府方針を転換させたのかという記者の確認に対して、菅長官は「(拉致問題について)政府の総力を挙げて最大限の努力を続ける」と強調しました。そこには、拉致問題の解決と金正恩委員長との会談を切り離すという政府の意志が込められていました。

そして9日を迎え、菅長官の訪米となるわけですが、北朝鮮はこの日にもふたたびミサイル発射実験を行いました。何かの符丁であるかのような、じつに不思議なミサイル発射でした。

菅長官の訪米は、もちろん安倍首相の指示で実現したのですが、こちらも複雑な狙いを持つ訪米だったと見られます。

「令和おじさん」をアメリカにもお披露目した

というのは、菅長官はポスト安倍のナンバーワン候補です。それまでまったくのダークホースだった菅長官をポスト安倍の1人に挙げたのは、自民党の二階俊博幹事長です。これは、4月発売の月刊誌「文藝春秋」掲載のインタビューでのことでした。

菅長官は、安倍長期政権を支える手腕に定評があるのはもちろんですが、新元号「令和」発表で注目を集めたという経緯もあります。何かが動いているなという感触は、このときすでにわかる人にはわかっていました。

思い起こせば、小渕恵三官房長官(竹下内閣)は「平成」の新元号を発表し、それをしたためた色紙を国民に示しました。そのため「平成おじさん」という呼び名で国民に親しまれ、のちに首相に上り詰めました。

今井 澂『2020の危機勝つ株・負ける株』(フォレスト出版)
今井 澂『2020の危機勝つ株・負ける株』(フォレスト出版)

このたびの天皇即位では、菅長官が新元号の色紙を示し、マスコミは示し合わせたかのように「令和おじさん」と親しみを込めて呼びました。

「令和おじさん」の役どころを務めたのは、たまたま官房長官という役職に就いていたからではありますが、もちろん次期首相候補の存在感を国民に示す含みもあったことでしょう。いまの世の中はすべてが宣伝の結果ですから、天皇の退位・即位という一大イベントを利用しない政権はありません。

その菅長官がわざわざ海を渡るというのですから、アメリカもお見通しで、「次期首相最右翼のお出ましだ」とピンときたことでしょう。だから、ペンス副大統領との会談が当たり前のように実現し、ポンぺオ国務長官も予定をキャンセルしてまで菅長官との会談に駆けつけてきたのです。