感染研は「自家調整した検査法」にこだわった

東京五輪が頭から離れない政権中枢の動きは鈍い。国内感染が出て2週間後の1月30日、ようやく政府に「新型コロナウイルス感染症対策本部」(本部長・安倍首相、副本部長・加藤勝信厚労大臣、菅義偉官房長官、本部員・全国務大臣)が設置される。この時点で「専門家会議」はまだ影も形もない。感染症の素人である政治家たちは、何を根拠に対策に当たろうとしたのだろうか。政治主導ではなく、科学主導のフェーズである。

のろのろと動きだしたPCR検査は、武漢から763人が帰国し、2月3日には乗客、乗員合わせて3711人を乗せたクルーズ船、ダイヤモンド・プリンセス号が横浜大黒埠頭に接岸すると、たちまち暗礁に乗り上げる。検査を行う地方衛生研究所のキャパシティーが絶対的に足りなかった。厚労省と感染研は、検査体制を拡充しようと受託検査会社にPCR検査の実施を打診する。ここで感染研は自家調整した検査法にこだわった。

検査法を広げても事態は改善されない

「一般的に自家調整の検査というのは、承認された体外診断薬とは異なり、『事前に必要な試薬を集めて調整したり、検査の質を確認したりといった作業が必要になる』(専門家)」と日経バイオテク(「新型コロナウイルス、検査体制の拡充が後手に回った裏事情」2月28日付)は報じる。だが、オーダーメイドに応えてくれる民間企業は少ない。

感染研は、スイスに本拠を置く巨大製薬企業ロシュ社が先に開発して大量供給をスタートさせていた研究用試薬を使っても「同等」とマニュアルを改める。つまり検査法の幅を広げたわけだが、事態は改善されない。厚労省は、文科省を通じて全国の大学病院に遺伝子検査が可能かどうかヒアリングを始める。

「ただその際は、『感染研の自家調整の遺伝子検査に必要な試薬を配布するので、遺伝子検査ができるかどうかというヒアリングで、感染研の自家調整の遺伝子検査が前提になっていた』(ある大学病院の医師)」(前掲誌)。自家調整への執着が消えなかった。

なぜ大学病院が活用されなかったのか

では、文科省側はどうだったのか。

たとえばドイツでは、2月中旬までに全国の大学病院でPCR検査の実施体制が整っている。大学病院は民間の検査機関にその方法を伝授し、医薬資材・試薬メーカーが大量の検査キットを製造してフォローした。日本でも大学病院の多くがPCR検査機を所有し、理化学研究所なども十分な検査能力を持っている。

厚労省の感染対策とは別の部門の技官は、「文科省高等教育局医学教育課と話して、大学に号令をかけてもらえば一発でしょう。一般の研究機関にも声をかけやすいはず。文科省は、予算が削られないためにも、こういうときに力を出す、と思うのですが……。過去には垣根をこえて連携していますよ」と言う。実際に3月中には文科省の事務方は大学の研究室ごとのPCR検査能力の聞き取りを終えていたが、厚労省幹部と加藤大臣は協力要請をしない。それどころか機器を備えた一般の大病院のPCR検査も認めなかった。

ネックは政治だった。2月16日、ようやく「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」の第一回会議が開かれ、感染が疑われる人は「風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く」などの保健所に相談する目安が確認される。PCR検査を絞って医療崩壊を防ぐ方針が決まった。