党中央の承認得ぬまま尖閣に侵入
「毛沢東時代と同様、海洋をめぐる混乱の過程では、党中央が相矛盾ずる二つの対外方針を採用していた。国内の実務担当者は、どちらを優先すべきかという問題で混乱した。穏健派であった胡錦濤と党中央が、国内的批判を受けて判断に行き詰まり、凝集力を低下させたため、実務部隊は独自行動を強め、自己利益拡大のために海上行動を過激化させた。それが国家海洋局であり、胡錦濤政権(2002~2012年)末期にはかなりの注目を集めた」(同書より)
2008年12月、国家海洋局傘下の中国海警局の海洋調査船2隻が初めて尖閣諸島の領海に侵入。5月に来日したばかりの胡錦濤総書記(当時)はじめ党中央の承認を得ぬままの行動だったという。「弱い指導者と認識されていた胡錦濤政権は、(中略)国際的な係争の存在に目をつぶり、これらの海域は自国の者という前提に立って、実務部隊が力によって海域の実効支配の拡大を図るのを容認した」(同書)。“第2の海軍”ともいわれる中国海警局の船は、2012年の尖閣国有化の後も、たびたび尖閣諸島への領海侵入を行うようになった。
「行動がちぐはぐで指導者の意図が推し量りにくい」
こうしたいわば“頭”と“身体”の不一致は、中国という大国ではしばしば起こってきたようだ。前出書によれば、「これまで中国の組織については、組織間の連携、特に国家系統と軍系統のそれがきわめて弱く、行動がちぐはぐで指導者の意図が推し量りにくい、という弱点が指摘されていた」という。
2013年に国家主席の座に就いた習近平は、海上行動の統率権を強引に党中央に引き戻し、国家海洋局から中国海警局を取り上げ、大幅な組織改編で国家海洋局を実質的に解体したという。ただ、ガバナンスの強化を推し進めてきた習近平体制が、こうしたちぐはぐさを克服できたとは言い切れないのは、昨今の振る舞いからも推測できる。
尖閣諸島の海域において、軍事上のバランスが中国側に傾いたとの米国のシンクタンクの報告すらなされている今、最大限の警戒と準備は怠れない。が、中国の傲岸な振る舞いに相対するには、見えざる内部の力学を常に念頭に置き、「それ、ほんとに習近平や党中央の本心なのか?」を的確に探り当てられる人材が、政府内、在野を問わず必須であろう。