▼藤原さんからのアドバイス
プロ作家のとっておきの文章術をお教えしましょう。全体のストーリーをつくる前にシーンをバラバラに書きためて、それらを後からつなぎ合わせる「箱書き」と呼ばれる手があるのです。私も小説や評論を書くときに利用しています。
私の場合、テーマに沿って思いついたことを葉書大のメモに書きためます。ある程度の枚数に達したら、そこではじめて全体の構成を考え、章立てをしてメモを割り振っていきます。要素がダブれば捨てることもあるし、構成の結果、要素が足りないところがあれば新たに書き足します。これには最初に手元に材料があるので、構成を考えやすくなるという利点があります。
長い文章になると構成が混乱するという人は、材料が何もないところから始めている可能性があります。これではまるで、どのようなピースがあるかわからないまま、ジグソーパズルを組み立てるようなものです。まずは材料を揃えてから構成に入るべきです。
書き終えたら、文章を音読してテープに録り、聞いてみることをおすすめします。自分では理路整然と構成できたと思っていても、いざ耳で聞いてみると、つながりの悪い部分が見つかることがあります。そこは構成がうまくいっていない証拠。改めて書き直す必要があります。
自分で書いた文章は、往々にしてよく見えます。しかし、第三者から見れば、構成や言い回しがおかしい個所が見つかるものです。本当は人に読んでもらって指摘を受けるのがベストですが、現実問題としてそのような相手を見つけるのは簡単ではありません。そこで音読して、自分と文章との距離を取るのです。
パソコンで打った文書を、そのまま関係者に配るのも間違いのもとです。できれば一度は印刷して、読み直したほうがいい。多くの場合、画面で見ているときには気がつかなかった構成の歪みが発見できるものです。いずれにしても自分の文章を客観的に見る仕かけが必要です。
1955年、福岡県生まれ。『王を撃て』で小説家デビュー。92年、『運転士』で芥川賞受賞。『「家をつくる」ということ』がベストセラーに。『暴走老人!』『検索バカ』では現代社会の問題の本質を説く。