▼齋藤さんからのアドバイス

最初の項で述べた通り、ビジネス文書では、冒頭に結論を持ってくるべきです。読み手となる上司や取引先は、忙しくて文章にじっくりと目を通す時間がないかもしれません。そう考えると結論から始めて、以下、優先度の高いものから書いていくのが基本でしょう。

そのときに問われるのは、文章力ではなく決断力です。ある問題に対して、3つの解決策があったとします。それらを思いついた順に羅列した文書は、自分で考えることを放棄して、読み手に意思決定の負担を強いることになります。最終的に決断を下すのは上司だとしても、まず自分の意思を示さなければ、たんなる情報収集係と同じです。上司が直接、ネットで検索するのと大差ありません。

ビジネスの世界では、書くことは決断することと同じです。選択肢が3つあるのであれば、最良と思うものを一つ選び、それを中心に据えて論を展開すべきです。当然、実行の段階でリスクも発生しますが、上司がほしいのは、どのような利益があるかという美辞麗句ではありません。撤退しなくてはならないときの損失はどの程度で、どこまでなら進んでも引き返せるかというリスクについてもきちんと言及された文書です。経験を積んだ上司からは、リスクに触れられていない文書は、それだけで却下されると思っていいでしょう。

3つの解決策のうち、何を優先すべきかわかっているが、いざ構成の段になって混乱する人は、文章の区分けがうまくいっていないのではないでしょうか。たとえるなら段ボールに種類の違う荷物を詰めたまま、整理するようなものです。一つの段落に複数の要素を盛り込んでしまうから、構成で頭を悩ませることになるのです。

具体的には、事実関係と意思決定の部分は分けて書くべきです。さらに事実関係も、自社の事情、関係者の事情、市場環境というように分類します。きちんと要素を整理できているかどうかは、各ブロックに小見出しをつけるとわかります。小見出しとブロックの中身が合わなければ、要素が整理できていない証拠です。もう一度、荷物をひもといて整理し直す必要があります。

それぞれのブロックに書かれた内容と小見出しが一致すれば、後は小見出しを見ながら組み立てていけばいい。実際に小見出しを立てるかどうかは別にしても、小見出しを意識しながら文章を書くだけで、構成がしやすくなるはずです。

明治大学教授●齋藤 孝


1960年、静岡県生まれ。東京大学大学院博士課程修了。専門は教育学、身体論、コミュニケーション技法。著書多数。近著に『坐る力』『1分で大切なことを伝える技術』『若いうちに読みたい太宰治』など。
(村上 敬=構成 相澤 正=撮影)