ナノと同じ価格レベルのエアコンでは、ビジネスシステムが変わりつつある。かつては、エアコンメーカーが基幹部品であるコンプレッサーを内製化していたが、ダイキンのように、コンプレッサーを社外から調達するという思い切った戦略をとるグローバルメーカーも出てきている。パナソニックは、コンプレッサーのグローバルなサプライヤーになりつつある。ナノのレベルの価格帯になれば、基幹部品であるエンジンを外注する自動車メーカーも出てくるかもしれない。逆に、エンジンに特化するところも出てくるだろう。どこがエンジンに特化し、どこがアセンブリーに特化するかを考えてみると面白い。
ナノのレベルの価格帯になれば、ディーラーで車を売るというビジネスシステムは成り立たない可能性がある。コストがかかりすぎるからだ。自動車の量販店ができるということもありうるだろう。そうなると、価格競争はさらに激化し、自動車メーカーは今のように高い利益を上げることできなくなるかもしれない。もちろんGMはいなくなっているだろう。そのときでも、現在のディーラー方式で自社流通を続けることができるのはどのような会社か。
ナノが生み出す設計思想とビジネスシステムが電気自動車の実用化への道を開く可能性もある。電気自動車は高価なものという常識があるが、ビジネスシステムが変われば、この常識も覆される可能性がある。電気製品と同じような部品と組み立ての垂直分業が行われれば、コストの低下は著しいものになるかもしれない。モーターの内製化をする自動車メーカーはさらに減るだろう。モーターで勝つのはどの電機メーカーか。組み立てに特化したアセンブラーは何で戦うのか。
価格帯の大きな変化は消費者の意識も変えるだろう。目新しい商品が低価格で買えるようになったとき、車をステータスシンボルだと考え、その何十倍もの値段を払う消費者はほんとうに愚かに見えるかもしれない。それよりも、その日の気分にあわせて乗る車を替える人がかっこよく見えるのかもしれない。
ナノのレベルもの価格帯になると、10年という耐用年数も過剰かもしれない。パソコンのように2年ももてばいいという考え方で車を買う顧客も増えるかもしれない。車が壊れたときに修理するよりも、新しい車を買うという選択をする顧客も増えてくるだろう。
タタのナノはこのようなことを考えさせてくれる車である。それがきっかけになって、さらなるイノベーションが起こる可能性がある。目が離せない。