2009年3月23日、インドのタタ・モーターズは世界最安価格の小型車「ナノ」を発表した。これを契機にビジネスシステムが激変すると筆者は説く。

なぜタタの格下げはよい兆候といえるのか

自動車産業は先進国型のグローバル産業である。最近は、中国や韓国の成長が著しいが、依然として主要なプレーヤーとなっているのは、欧米や日本の自動車メーカーである。

中国は大きな市場となりつつあるが、ここでも、欧米や日本の巨大メーカーと、国際提携したローカルメーカーが主役である。中国企業のなかからグローバル企業は育ってくるのか。さまざまな見方があるが、先を走っている先進国メーカーと同じような車を同じようなやり方でつくって、追い越すのは難しい。

まったく違うアプローチをとる企業が出てきたのはインドである。3月、タタ・モーターズがナノという超低価格車を出した。タタは、スズキに次いでインド第2位の自動車メーカーであり、英国のジャガーやランドローバーを買収するという積極的な動きをしている。

ナノの価格は約11万ルピー、日本円で約21万円、発売は4月である。日本では、小型車でも100万円程度するから、ほぼ5分の1。かなり年数がたった中古車の値段だ。高級なエアコンや大型冷蔵庫なみの値段でもある。安くするために、さまざまな工夫が行われている。もちろんエアコンはない。助手席側のバックミラーもなくし、ワイパーは1本だけ。通常4本あるホイールのボルトも3本に減らされている。プラスチックも多用されている。

業界では、「到底、自動車と呼べるしろものではない」という冷ややかな見方がある。誰がこの貧相な車に乗りたがるのか、という人もいる。自動車は、人命にかかわるものだから、安ければ売れるというものではないという見方も強い。新車発表後、アメリカの格付け会社はタタの評価を下げた。この格下げは、考えようによってはいい兆候である。トヨタは格付けを下げられてから、本当に強くなったからである。アメリカの格付け会社に格付けを下げてもらうようなことをしないと、グローバル市場での成功はおぼつかないのかもしれない。