顧客を理解するための2つのポイント

図2:顧客を理解するポイントは2つ
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図2:顧客を理解するポイントは2つ

「営業センスとは、感情移入する力である」

この定義には違和感を抱く人がいるかもしれない。「そもそも感情移入とは何だ?」と疑問に思われる方も少なくないだろう。

感情移入について、私たちは次のように定義している。

●他人の状況・立場・感情・動機を感じ取り、理解すること
●自分を相手の立場に置き、感情を分かち合う能力

感情移入は営業活動で要求されるすべてのスキルの土台である。感情移入が基礎にあってはじめてヒアリングやプレゼン、クロージングが有効になる。さらに言えば、組織のマネジメントも感情移入があってこそ機能する。

ただし、感情移入の方法は人それぞれだ。アプローチがきわめて多様である、と言ってもよいだろう。

たとえば、パッと相手の表情を見て「この人はこんなことを考えているのか」と感覚的にとらえる人もいれば、仮説を立ててロジカルに分析し「こう考えているに違いない」と結論を出す人もいる。情報収集の手法にしても、遠回しに聞き出していく人もいれば、ひたすら顧客の動きを観察して情報を集積していく人もいる。

さまざまな方法がある中で、共通しているのは顧客を理解して「自分が相手の立場ならこうする」という姿を想定し、顧客に共感したうえでアプローチをかけていることだ。

このとき、「顧客を理解する」という行為には2つのポイントがある。

図3:感情移入すべき相手は複数いる
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図3:感情移入すべき相手は複数いる

一つは顧客の置かれた「状況」に対する理解。もう一つは顧客の持つ「感情」に対する理解。顧客を理解することは顧客の置かれた状況と、顧客の感情に共感することだともいえる(図2)。
「感情に共感する」ことは個人対象の営業を想定するとわかりやすい。法人営業でも、実際に対面しているのは組織ではなく組織を構成している個人なので、基本的には同様に考えればよいだろう。

ただし、法人営業の場合は多面的なアプローチが必要だ(図3)。まず営業の窓口になっている担当者、実際に商品を使用するユーザー、そして財布のひもを握っている責任者。少なくとも取引にはこの三者が関わってくるが、それぞれ思惑やニーズが異なる。

したがって、この3人にそれぞれ感情移入して、3人の状況と感情に共感することが必要だ。これができてはじめて営業活動はうまく回り始める。

感情移入をしたうえでヒアリングする人と、感情移入なしでヒアリングする人を思い浮かべてみてほしい。同じ内容を質問されても、もし自分が聞かれる立場だったらどちらに快く情報を提供するだろうか。一事が万事で、感情移入できるかできないかは営業活動のあらゆる場面に影響を与える重要な要素である。

(構成=宮内 健 撮影=鷹尾 茂 ※図版は取材をもとに編集部作成)