心の中にはいくつもの財布がある

上述のような消費者心理を理解するために、心理学者の小嶋外弘は心理的財布という概念を提唱しました。私たちがもつ物理的な財布はたとえ1つであっても、心の中にはいくつもの財布があるとみなし、それを心理的財布と言います。

どの心理的財布から出すかによって、同じ金額の出費でも、高すぎたとして「痛み」を感じることもあれば、納得して「満足」を感じることもあります。

たとえば、デートのときなら食事代が1万円かかっても満足できるのに、職場のつきあいで食事代が5000円かかると痛みを感じたりします。冒頭であげた例のように、旅先では3000円の食事でも納得し、満足できるのに、日常の食事に1000円かかると、高すぎるとして痛みを感じたりします。

このように、状況によって使う心理的財布が違うため、同じ金額でも満足したり痛みを感じたりするのです。

心理的財布の例

人によって「心理的財布」の種類や支払可能な金額が異なる

同じく日常の用途でも、外食のための財布からの2000円の出費には痛みを感じるのに、文化・教養のための財布からだと3000円の出費も納得し満足を感じるというようなこともあります。外食もいくつかに分けられており、喫茶店用の財布だと800円の出費は痛いのに、夕食用の財布なら1000円までは許容範囲だったりします。このように状況によって、また商品やサービスによって、痛みを感じる金額が違います。

それは、支出する心理的財布が違うからです。さらに、人によってもっている心理的財布の種類や支払可能な金額が異なります。

お金がないからといって昼食代を節約しているのに、自己啓発のための書籍やセミナーには惜しみなく出費するという人もいます。衣服代に毎月かなりの金額を使っているのに、たまに出かける温泉旅行の宿代をやたらケチる人もいます。好きなアーティストのコンサートには1万円でも平気で出すのに、飲み会で5000円以上かかるなんてあり得ないと文句を言う人もいます。そうした傾向は人によって異なるため、それぞれをいくつかの層(セグメント)にわけ、各セグメントごとに、どのような心理的財布をもつ傾向があるか、財布ごとにいくらくらいの支出になると痛みを感じるかを知っておくことは、マーケティングにとって非常に重要となります。