人はなぜ共通点が多いと仲良くなりやすいのか。心理学博士の榎本博明氏は、「心理学者ハイダーが提唱した『認知的バランス理論』で説明できる。人間関係は三者間の関係性で決まるという理論だ。巨人ファンと阪神ファンの対立も同じ理論で説明できる」という——。

※本稿は、榎本博明『ビジネス心理学大全』(日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです。

2つの手が互いを脅す
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郷里が一緒というだけでなぜか親しみを感じる

営業活動をうまくやっていくには、先方と趣味が同じとか、出身地が同じとか、共通の知人がいるとか、何らかの共通点があると有利だと言われますが、それには科学的な根拠があるのでしょうか?

共通点があると話が盛り上がるというのは、だれもが経験しているのではないでしょうか。取引先の担当者と趣味が同じだと話が盛り上がるし、実際に一緒にゴルフをしたり、野球観戦に行ったりする人もいます。郷里が同じということで話が盛り上がることもあります。出身校が同じとわかって、懐かしさが込み上げ、急に親しい雰囲気になるということもあります。

そうした経験から、営業活動を進める際に、相手先の担当者と趣味が同じ人物や出身地が近い人物、あるいは出身校が同じ人物を送り込むというような戦略がしばしば取られます。でも、経営者や管理職の中には、それがほんとうに効果的なのだろうかと疑問に思う人もいるようです。

ある経営者は、素朴な疑問を口にしました。「ウチでも相手先の担当者と出身地や出身校が同じ人物を営業に行かせたりしてきましたけど、ときどき不思議に思うんですよ。だって、同じ県出身とかいっても、いろんな人がいるじゃないですか。気の合う人から気の合わない人まで。同じ学校にだって、嫌なヤツもいたじゃないですか。それなのに、出身地が一緒とか出身校が一緒だといって、気を許したり親しみを感じたりするもんですかね」

それはもっともな言い分です。でも、共通点があると交渉事がうまく進行しやすいというのは事実なのです。ここからわかるのは、人間というのはよく考えて反応しているわけではなく、反射的に動いてしまうものだということです。

では、そこにはどのような心理法則が働いているのかをみていきましょう。