伝説となった吉村「イソジン会見」

では、吉村氏の場合はどうだろう。まず、その会見時間は1時間を超える。あらかじめ用意・通告した質問を記者が読み上げ、事前準備された回答の書面を読み上げる安倍総理の「会見ショー」とは大きく異なる。小泉純一郎総理の「ガリレオ解散会見」と並ぶといっても過言ではない「イソジン会見」に衝撃を受けた方々も多いのではないか。もはや後世に残るだろう「伝説の記者会見」ともいえる。

念のため、その会見に少し触れておきたい。8月4日、居並ぶ記者たちの前に日本維新の会代表である大阪市の松井一郎市長とともに現れた吉村氏は、おもむろにこう切り出した。「ウソみたいな本当の話をさせていただきたい」。机上にずらりと並べた各社のうがい薬を手に「うがいをすることで、コロナの陽性者が減っていく」などと熱く語りかけたシーンは、まるでテレビ通販番組で「今なら、もう1個ついて3980円!」という声が聞こえてきそうな雰囲気だ。今すぐにでも、うがい薬を購入したくなってしまうほどの説得力がある。

府立病院機構「大阪はびきの医療センター」(大阪府羽曳野市)とともに、コロナ感染者に口内の殺菌や消毒をする成分である「ポピドンヨード」成分を含むうがい薬でうがいをしてもらったところ、唾液検査で陽性割合が減少したとの研究結果をわかりやすく説明した。41人に調査して具体的にデータをあげていくところは、府独自のコロナ対策基準「大阪モデル」を公表した時と変わらない。

吉村にも確かに軽率な面はあったかもしれない

「府民の皆様に、この目の前にあるポピドンヨード、こういったうがい薬を8月20日まで集中的にぜひうがいを励行してもらいたい」「このコロナにある意味打ち勝てるのではないかとすら思っている」

国のトップからのメッセージがほとんどない中で、ここまで言い切る首長に「救世主」像を重ねた人もいるはずだ。吉村氏への信頼があるからこそ、会見直後からうがい薬の購入に走る人が続出し、全国各地の店頭から消えていったのである。専門家は「吉村氏が発表したものは科学的根拠が薄い」と指摘し、大阪府歯科保険医協会は「医療現場と府民に混乱をもたらし、治療にも支障をきたしている。瞬く間に『うがい薬』が市場から消えてしまい、最も多く使用している歯科医療機関でさえ手に入らなくなっている」と批判する声明を出したが、もう少し温かく見守りたくなる存在ともいえる。

たしかに数百~数千の事例を集めた分析ではなく、国が効果を確認していない段階での発表は「軽率だ」との誹りは免れない。人気急上昇中の際は「マウントをとって、政府や他の首長に批判的なコメントを続けていたが、大阪府も感染者数は実はかなり多い」(大阪市の40代男性経営者)との批判もあがる。実際、この会見を機に吉村氏は「フルボッコ」状態に遭い、一時は「タップ寸前」とまで言われるようになった。ただ、8月5日の記者会見では「予防効果があるということは一切ないし、そういうことも言っていない」などと釈明しているではないか。