自民党内での“疑似”政権交代には限界

「春よ、来い。早く、来い」

史上初の緊急事態宣言の発出とともに迎えた2020年の春から「巣ごもり生活」を余儀なくされてきた国民の中には、松任谷由実氏の人気曲をしみじみと感じている人もいるだろう。WHO(世界保健機関)が長期化を示すコロナ禍に人々は焦り、未曽有の危機を突破してくれる力強いリーダーを渇望している。だが、現実はどうだろう。読売新聞とNNNが8月7~9日に実施した世論調査によると、安倍政権のコロナ対応を「評価しない」との回答は前月より18ポイント上昇し、66%に達している。安倍総理が指導力を発揮しているかについては「そうは思わない」が78%に上っており、7年半もの長期政権を築いてきた安倍政権に対する国民の失望はあまりに大きい。

はっきり言えば、「自民党1強」時代に安倍総理に代わるリーダーが登場することは容易ではない。よほどのことがない限り、自民党総裁任期が満了を迎える来年9月までは付き合わざるを得ない可能性が高く、無策が続く現況から悲嘆に暮れる人もいる。「ポスト安倍」候補としては、自民党の石破茂元幹事長や岸田文雄政調会長、菅義偉官房長官らの名があがるものの、いずれも国難を突破できるほどの突破力と求心力を持っているかは疑わしい。何より、石破氏を除いて安倍政権と二人三脚で歩んできた人物が宰相に就きさえすれば、国民の共感を得られるようになるかといえば、大いに疑問がある。もう自民党内の「疑似政権交代」だけでは限界があるようにも感じる。

安倍とは対照的な吉村

しかし、そう悲観することはない。わが国には、かつてコロナ対応で人気急上昇した人物がいるからである。その男の名は、今や「イソジン吉村」「ウソジン吉村」の異名を持つ大阪府の吉村洋文知事だ。別の名として「ポピドン吉村」というのもある。歯に衣着せぬ発言と行動力、韓流スターと見まがう甘いルックスで人気を呼び、毎日新聞と社会調査研究センターが5月に実施した全国世論調査では、コロナ対応で「最も評価している政治家」のトップとなった。それは「もう3カ月も前のことだよ」と言われるかもしれないが、連日のように出演したテレビ番組ではキャスターや評論家が賞賛し、一時は飛ぶ鳥を落とす勢いだった過去を持つのは事実だ。

6月下旬から全国各地で感染再拡大が見られていたにもかかわらず、記者会見を開いて国民にメッセージを送ることもなく、ただ存在感を消していた「大宰相」と、露出を好む吉村氏のスタンスはあまりに対照的といえる。安倍総理は8月6日、広島市で49日ぶりの会見に臨んだが、その時間はわずか15分間。同9日の長崎市での会見も18分間で打ち切り、「まだ質問があります!」との呼びかけにも応じることはなかった。ちなみに2つの会見は平和記念式典に参列した際に開かれたもので、コロナ対応を自ら呼び掛けるために開催されたものではないことも付記しておく。