菅官房長官「現金化に至れば、日韓関係に深刻な状況を招く」

菅義偉官房長官は8月4日の記者会見で、「日本企業の正当な経済活動の保護の観点から、あらゆる選択肢を視野に入れて毅然と対応していきたい。韓国の司法手続きは明確な国際法違反だ。現金化に至れば、日韓関係に深刻な状況を招く」と述べた。

政府内では、韓国に対する関税引き上げや送金停止が検討されているが、麻生太郎副総理兼財務相もこの日の記者会見で「現金化された場合、しかるべく対応を取らざるを得ない方向になる可能性が出てきている」と話した。

これまでに2つの解決策が示された。

ひとつはこうだ。韓国政府が2019年6月に「日韓両国の企業が自発的な出資で、元徴用工らへの慰謝料相当額を支払う」との和解案を示した。しかし、韓国政府案は「自発的」としつつも日本企業の出資を前提としていた。このため、日本政府は事実上の賠償になるとみて反対した。

2つ目の解決策はこうだ。同年12月に韓国国会の文喜相(ムン・ヒサン)議長(当時)が「日韓両国の企業・個人の寄付金」を元徴用工らへの慰謝料に充てる法案を国会に提出した。この文議長案は特定の企業に言及せず、「寄付を強要してはならない」との規定も明記されていた。

現実的には被告の日本企業が寄付に応じることを想定しているものの、日本政府は「被告企業が人道的観点から自主的に寄付を決めるなら反対する理由はない」とした。これに対し、韓国政府は「被告企業が参加しないこともあり得るとなれば、大法院(最高裁)判決の履行が無効になりかねない」と主張し、文議長案は支持されなかった。

文大統領の脳裏には「反日種族主義」が塗り込まれている

文在寅政権は4月15日の総選挙で与党が圧勝し、文大統領は2022年春の次期大統領選の勝利に向けても前進したといわれる。しかし韓国内の情勢はそんなに甘くはない。

沙鴎一歩の手元に『反日種族主義』(2019年11月、文藝春秋発行)という本がある。韓国で同年7月に発売されて以来、ベストセラーとなった書籍の日本語版だ。反日種族主義とは、日本を永遠の敵とみなす敵対感情のことである。

文大統領の脳裏には、この反日種族主義がべったりと塗り固められている。文氏は反日種族主義を利用して自らの政権を維持・強化し、この先に続けようと画策している。日本にとって元凶は文大統領だ。文氏が完全に倒れれば、日韓関係は間違いなく改善する。

それにしてもこの本はなぜ、これほど韓国で大きな注目を集めたのか。

慰安婦問題や徴用工賠償判決で1965年に締結された日韓基本条約と日韓請求権協定を否定する文在寅政権に真っ向から挑み、正しく批判したからだろう。いまの文政権に不満と危機感を抱く韓国の多く人々が支持し、その結果としてベストセラーになったのである。

裏を返せば、文大統領に不信を抱く韓国の人々が多く存在することになる。日本政府は情報収集の能力を上げて文政権に反発する政治的な動きを的確に捉え、それを韓国との外交に生かすことが求められる。外交とはそういうものだ。