コロナ禍による未曽有の経済危機に金融機関はどう対応すべきか。「100兆円貯金」を預かる農林中央金庫は、世界中から金利がなくなるという状況で大きな変化を求められている。奥和登理事長は「海外で運用すれば利益が出るというパターンは完全に終わった。朝令暮改といわれても、そこは抑制していく」という——。(取材・構成=チーム「ストイカ」阿部重夫、樫原弘志)

「GDP単位でみるとリーマン危機ほどではない」という分析

——農中は2020年3月期の決算で経常利益1229億円と前年比横ばいでした。コロナ禍で3月に市場が一時急落した影響は幸い軽微でしたが、FRB(米連邦準備理事会)が総資産を一挙に1.5倍に増やす量的緩和に踏み切ってCLO(ローン担保証券)の値崩れを防いだのが大きい。パウエル議長が5月20日の講演で市場に安心感を与え、コロナ第2波にも小康を保っているが、何が起きるか分からない。FRBの今後のスタンスをどう見るか。

(5月20日講演では)コロナについて踏み込んだ判断はしていません。企業の過剰債務について慎重に幅のある分析をしていて、GDP(国内総生産)単位でみると前回のリーマン危機ほどではないというもので、相応の納得感を持ちました。米国がマイナス金利に踏み込むかどうかは読み取れませんでしたが、市場に安心感を与える力強い意志を感じました。CLOについても、サブプライム危機のCDO(資産担保証券)との違いを丁寧に説明して、金融の安定を脅かすようなリスクではないと判断されています。しかし、なにせ世界中から金利がなくなるという状況ですから、運用環境としては相当厳しい。

農林中央金庫理事長の奥和登(おく・かずと)氏(撮影=チーム「ストイカ」)
農林中央金庫理事長の奥和登(おく・かずと)氏(撮影=チーム「ストイカ」)

——CLO残高7000億ドルのうち、米大手銀の保有額は900億ドル、農中のCLO投資は一時8兆円(約750億ドル)と大きい。CLO残高を今後減らすかどうかの方向性は?

FRBが(コロナ以前に)バランスシートを縮めて金利を上げている段階では、金利上昇に強いもの、債券からクレジットへ運用をシフトさせたこともあって、CLOの運用を一時8兆円に増やしたのですが、市場シェアが大きくなりすぎた面もあり、少なくとも今の時点では新規に増やすことはやめています。上限を抑える一方で、期落ちなど償還により自然体で残高は落ちていきます。OC(担保価値保全)テストなどで優先トランシェの早期繰り上げ償還により元本が減ることもあり、落ちていくスピードはちょっと読めませんが……。

「いまの段階で10年、20年の金利リスクはなかなか取れない」

——FRBがドルの大量供給で市場を支えたということは、価格リスクを潜在的なドル安リスクに転嫁したとも言えます。対外投資での為替ヘッジはどうしていますか。

3月期末のCLOの含み損は4000億円程度(残高は7兆7000億円程度)でしたが、4~6月は残高7兆6000億円で、含み損は1300億円まで縮小しています。購入するCLOはAAA格トランシェに限定し、基本は満期まで保有することにしています。基本的に海外の運用は為替ヘッジしています。逆にその分、スプレッド自体は薄くなるのですが。

——6月以降、「10年物以上の為替ヘッジ後の米国債利回りが、日本国債の利回りを上回っている」ので、日本の機関投資家の米債投資が復活しているとの観測(7月21日付日経)が出ていますが、日米の短期金利差縮小で農中も米債投資シフトを考えていますか。

確かに足元の調達金利の低下で、スプレッドは厚くなっていますが、だからといっていきなり増やすというほどではない。以前投資したデュレーション(残存期間)が残っているものですから、期落ちでどうするかを考えていくのが現実的だと思います。日本からの米債投資再開の動きは、生命保険などどちらかというと長い投資を考えている機関投資家でしょう。農中はいろいろなリスク管理の指標があって、いまの段階で10年、20年の金利リスクはなかなか取れない。トータルの金利リスク量の範囲内で、買えるところは買うという程度で、一気にシフトするということではない。