「すでに集団免疫を獲得。“第2波”を恐れる必要はない」

しかし、それに煽られた世間では、不安が不安を呼ぶ。それを鎮めるのは正しい情報とその見立てである。その筆頭にいわゆる“ファクターX”がある。他国に比べて重症者・死亡者が少数で済んでいる理由が何なのか。それがはっきり分かれば、犠牲者をさらに減らす方策を立てることが可能になるし、仮にウイルスが悪い方向への変異を見せたとしても、一定の対処策は講じられるかもしれない。

ファクターX候補として直近で注目を浴びているのは、「すでに日本人は集団感染が達成されている」「“第2波”を恐れる必要はない」とする上久保靖彦・京都大学大学院医学研究科教授および吉備国際大学の高橋淳教授の研究。当サイトでは5月にすでに紹介済みだが、上久保氏は7月27日、免疫学が専門の順天堂大学医学部免疫学特任教授の奥村康氏とともに都内で記者会見を開いて、その仮説を改めて繰り返した。

中国人の入国禁止措置を延ばした“幸運”

要約すると、日本本土に侵入・拡散した新型コロナウイルスの複数のタイプについて、侵入の順序やウイルスどうしの干渉の仕方が(幸運もあって)他国と異なっており、それが集団免疫につながった、ということだ。上久保氏によれば、新型コロナウイルスには大きく分けてS、K、Gの3つのタイプが存在し、それぞれが日本国内に浸透する順番が集団免疫成立のカギだったという。3タイプおのおのの特徴は、以下の通り。

S型:昨年10月~12月頃に世界中に拡散。無症状か軽症が多い。G型の致死率を上げる
K型:S型の変異型で弱毒性。今年1月頃をピークに日本国内へ侵入。G型に対する獲得免疫を持つ
G型:中国・武漢で発生、感染力が強い。上海で変異し欧米に拡散。

まず、上久保氏らは昨年11月から今年1月にかけて、日本国内のインフルエンザ感染者が例年より少なかったことに着目した。なぜ少なかったか? インフルエンザに感染した人は新型コロナには感染せず、逆もまた同じ。これをウイルス干渉と呼ぶが、インフルエンザ感染者が減ったのは、インフルエンザウイスとのウイルス干渉を起こすS型・K型が、昨年来の早い時期に日本国内に侵入・拡散していたからだという。

G型が猛威を振るい、1月23日からロックダウンに入った湖北省武漢市について、日本は2月1日から「2週間以内に渡航歴のある人」を入国禁止にしたが、それ以外の地域の中国人は3月9日まで日本への入国が可能だった。この間、中国人とともにG型の毒性を弱めるK型が流入し蔓延。それが逆に幸いして、日本人はG型の上陸前にその集団免疫を獲得。実際にG型が上陸しても、少ない重症化率・死亡率で済むに至ったという。