1953年、医学情報誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』の「肥満に関する再教育」と題する報告の中で、アルフレッド・ペニントン博士は「肥満は炭水化物のホルモン作用によって引き起こされ、炭水化物の制限によって治療できるので、脂質やタンパク質について心配する必要はない」と主張した。

それは、体重制限がカロリーの摂取と消費だけの問題であるという考え方との完全な決別だった。

摂取カロリーが同じでも、炭水化物中心の食事は太りやすい

1977年、『アメリカン・ジャーナル・オブ・クリニカル・ニュートリション(米国臨床栄養学会誌)』に掲載された研究により、摂取カロリーが同一であっても、食事の組成(高炭水化物・低脂質、あるいは高脂質・低炭水化物)によって、人体の生理への影響はまったく異なることが明らかになった。

この研究では、10人の肥満者を病院の代謝病棟に収容し、その食事を厳重に管理した。研究の被験者は少数だったが、こうした代謝病棟研究では食物摂取量とエネルギー消費量が注意深く測定されたので、実際的な価値があった。

2週間にわたって、被験者たちは炭水化物が70%、タンパク質が20%、脂質が10%の高炭水化物食を摂った。その後、7日間休んでから、被験者の食事は脂質が70%、タンパク質が20%、炭水化物が10%の食事に切り替えられた。

被験者の総カロリー摂取量は同じだったが、高炭水化物食よりも高脂質食を摂っているときのほうが体重は減少し、血糖、インスリン濃度、トリグリセリド、コレステロールが格段に下がった。

2002年、ハーバード大学公衆衛生大学院のウォルター・ウィレット博士は、脂質と肥満(脂質と心臓病に加えて)に関するすべての研究を集約し、関連性はないと判断した。彼は「高脂質の食事が今日のアメリカ社会における肥満のまん延の主因だとは考えられない。脂質を減らしても解決にはならない」と述べている。

低脂質食は肥満と糖尿病のもとになる

米国糖尿病学会(ADA)は長年、2型糖尿病のための高炭水化物減量法を推奨していたが、最近は炭水化物の摂取制限をすすめるようになった。

しかし、より高脂質の食事(最大70%の脂質)と炭水化物制限を組み合わせると、2糖尿病の治療と改善に非常に効果的だという決定的エビデンスがあるにもかかわらず、ADAはいまだに糖尿病患者に低脂質食をすすめている。

私はADAの大会に参加したが、展示フロア全体に食品業界後援の大きなブースがいくつも設けられ、その中で減量用の低カロリーで人工甘味料入りの低脂肪製品を宣伝していた。