食べ物によって「1カロリー」の意味が異なる

バターは高エネルギーなので、バターを食べるよりパンとパスタを食べるほうがたくさん食べることができる、私はそう教えられ、新しい研究がこの考えを覆すまでそれを信じていた。当然ながら、エネルギーバランス仮説には、意志の力が減量のカギであり、やるべきことはカロリー制限と運動量を増やすことだけだという意味が込められている。

この偏った考えの論理的な結論はこうなる――あなたが太り過ぎなら、それはきっと、あなたが怠け者の大食家で、運動しないで食べることが大好きだからだ。しかし、この考え方は誤りであることが実証されたのである。

食物を食べる場合、すべての1カロリーが同じ1カロリーではないことを示す新しい研究は、世間一般の通念とは相いれない。真空中か実験室の中では、すべての食べ物——ココナッツオイルでもハチミツでも——のカロリーを燃焼させると、同じ量のエネルギーを放出する。

しかし「ヒトの体の中」は「実験室」の中とは異なる。その食べ物を食べると、それは体内を通過しなければならず、ホルモン、脳内化学物質、代謝にまったく異なる影響を与える。

脂質のカロリーは糖質のカロリーとは燃焼の仕方が異なり、脂質のカロリーは代謝を促進する。脂質は燃焼される必要があり、インスリン――脂肪蓄積ホルモン――を急上昇させないので、簡単には蓄積されない。脂質は脳内で食欲を抑えるように作用し、1日に食べる全体量が減る。

糖質と炭水化物のカロリーがもたらす悪影響

一方、糖質や炭水化物のカロリーは正反対に作用し、インスリンを急上昇させて脂肪の蓄積を促し、病気のもとになる危険な内臓脂肪として急速に蓄えられる。そして代謝を遅くして、空腹感と異常な食欲をもたらす。こうした考え方は、膨大な科学的研究によって支持されている。

この体重増加に関するホルモンまたは代謝の仮説は、体重の増減を左右するのは摂取する食物の構成と質(そして食物が誘発するホルモンと生化学)であるという考え方を裏付けている。

つまり代謝のスイッチを制御するのは、どれだけ食べるかではなく、何を食べるかなのだ。食べ物に固有の情報――それが含むメッセージと命令――が代謝を促す。繰り返すが、炭水化物は体を脂肪の蓄積へと向かわせ(同化作用)、一方、脂質は体を脂肪の燃焼へと向かわせる。

食べる量を減らしてカロリーを摂取しないようにしても、炭水化物や糖を摂りすぎるとインスリンの分泌を促し、肝臓の脂質生産工場と体の脂質蓄積システムを稼働させて、あなたは太ることになる。しかし、食事中の脂質はインスリンを上昇させないので、内臓脂肪などの体脂肪を蓄積することもない。