利用者が熱を出しても泊めるしかない

コロナ感染対策については、これまで各業種向けの「ガイドライン」が示されているが、守るかどうかは任意で、それぞれの事業所の努力目標といった程度、つまり強制力が伴うものではない。ところが、今回のGo To トラベル開始に当たり、国交省は「義務」だと言うのだから驚きだ。

しかもその内容については、厚生労働省が示す「旅館業法」の内容と比べて齟齬そごがある。

岡山県にある下電ホテルの永山久徳社長は、「全員検温」について、一般店舗と違い、宿泊機関は高熱のある人の宿泊を断れないと指摘。旅館業法には「明らかに見た目で伝染病と分かる場合以外の宿泊拒否は違反」と示されているとした上で、「厚労省もコロナ発生後、出発地や体調を理由に、受け入れを拒否するのは許さないと改めて通達した」とし、国交省からの指示との違いに困惑する。

ただ、幸いなことに、今回取材した宿泊施設では、実際に「発熱した利用者がやってきて困った」という話は聞かれなかった。国民の間で感染対策が広がる中、さすがに熱があるのに泊まり歩こうといった不届き者はいない、ということなのだろうか。

「対象外」を承知で東京からの利用者も

Go To トラベルでの「東京外し」。実際の利用客の入りはどうだったのか。

静岡県東部を拠点とする宿泊業界団体の関係者に、この連休の「成果」について尋ねてみると「予想より多かったという答えと、少なかったとの答えがほぼ半々」ということだった。なんとも判断に困る結果だったわけだが、むしろ意外だったのは、「東京都内からの利用もそれなりにあったが、お客さまもGo To トラベルの適応外と承知だったこともあり、トラブルはなかった」「(割引申請に必要な)宿泊証明書を用意して渡そうとしたが、『要らない』と言う顧客も結構いた」との回答だった。

つまり、政府からの支援金の有無で消費者の「旅行へのモチベーション」が左右するわけではないことがうかがえる。

そもそも伊豆エリアは首都圏からの集客が多く、宿泊機関における都内からの来客シェアは6割にも達する一方、「インバウンド客への依存度はそんなに高くない」という。

現地自治体の観光事業担当者に、「東京外し」による“コロナ感染のリスク減少への喜び”と“観光客減少に伴う悲しみ”のどちらが強いか、と尋ねたところ、「もちろん、“悲しみ”の方が大きい」と即答した。