スパコン「富岳」が世界一になった一方で……

最近でも日本の理化学研究所などが開発したスーパーコンピューター「富岳(ふがく)」が並み居る世界の強豪を抑えて、国際ランキングの4部門で首位に輝き、日本のスパコンが世界1位に返り咲いたニュースが話題になったばかりです。そしてこの富岳は新型コロナ対策にも活躍しており、同コンピューターを用いてたったの10日間で2000種類超の新型コロナ治療薬候補を選別するなど、日々活躍する姿を見せています。しかし、世界一のスパコン・富岳で新型コロナの治療薬候補の選別をする傍らで、感染者数の報告はFAXで行っている。これだけを聞くと大きなチグハグ感を覚えるのではないでしょうか。

なぜ、この令和時代に世界一のスパコンを有する日本や、ITの大国の米国でも、FAXを活用して感染者情報を共有しているのでしょうか?

そんな中、とても興味深い論考が現代ビジネスに掲載されていました。北見工業大学教授で公衆衛生分野の情報化に詳しい奥村貴史氏が同サイトに寄稿にした記事によると、いまだにFAXを使い続けるのは合理的理由があるといいます。

いまだにFAXを使うしかない事情

同氏の書いた記事によると、この問題は日本の感染症対策の体制から来ているものであり、「患者発生届」のみをWeb化すれば解決する問題ではなく、逆に効率を下げてしまうだけになるというのです。また、予算を割けば一朝一夕に解決するという類いの問題でもないというのです。これにはいくつもの課題があります。

結論から言えば、新型コロナ報告を即日でデジタル化できない理由は、コンピューターの性能や、医師のITスキル不足によるものではなく、医療機関、自治体、保健所など複数の関係者で共通のシステムを整える必要があり、そのためには膨大なコストと時間がかかるほか、感染者報告専用のアカウント配布・管理方法などの課題を解決する必要があるとのことです。つまり新たなシステムの導入により、医療機関や保健所への負担がむしろ増えてしまうのです。

同氏からの改善につながる提言に、「OCR(光学文字認識、活字を文字コードに変換するソフト)処理を前提としたフォーマットをFAXで扱う」というものがあります。これなら、FAXによる一元的管理機能を担保しつつ、アナログでデータを受信しても、OCRスキャンすれば直ちにデジタル化できますから、入力する現場の手間を減らすことができます。