とりあえず日本という感覚にすぎない

日本は同じ少子化でも、氷河期世代に比べれば民間も公務員も格段に入りやすくなった。韓国も少子化のはずなのになぜ。

「大企業の数が少ないんです。それに韓国の大企業はグローバル化が進んでいるので韓国以外の学生との競争にもなります。あとはさっき言ったように、日本のような新卒の一括採用が少ないので、特別な人以外はソウル大学校を出ても安泰ではありません」

特別な人、とはコネクションのある人のことを指す。日本で言うところの「コネ入社」だが韓国のそれはもっとおおっぴらだ。そして日本ではどこか後ろめたい部分があったりネガティブに語られるが、韓国ではコネも実力の一つ、むしろ特権階級のステータスだ。強力なコネはSKYを卒業する苦労など軽く蹴散らしてしまうほどの力を持つ。

「なので仕事がないからとりあえず日本、という人は多いと思います。ハングル表記も多くて困ることは少ないです」

確かに観光地はもちろん、交通機関から公共、商業施設に至るまで韓国語の併記のない場所を探すほうが難しいくらいに「いたれりつくせり」だ。

「世界で日本ほどハングルが使われてる国もないと思います。その点も人気です」

日本語もそうだが韓国語もローカル言語である。まして南北合わせても人口は7500万人程度、各国のコリアタウンを除けば日本ほど街にハングルが溢れた国もあるまい。

日本は正直好きじゃない

「私も本音のところ日本は好きではありません。でも国と私は別問題、仕事と夢のために我慢です」

ユンさんもまた「嫌いな国に来る留学生」だった。いまは「嫌いな国で働く会社員」である。人それぞれの話なので彼のみで韓国全体の話に広げる気は毛頭ないが、私の知る限りでも韓国人の若者にとっての本音は「日本という国は嫌だけど」である。

もちろんその後、「文化は好き」「人は好き」のエクスキューズはつくが、他国の留学生や元留学生に比べても日本に来る韓国人は特殊な立ち位置にある。嫌な人は出ていくし、日本に近寄ったりしないが、韓国の若者は分けて考える。しかし日本は中曽根内閣の留学生受け入れ10万人計画以来、さらなる少子化を見越した労働力の供給と、四年制大学781校(2020年4月1日時点・文部科学省学校基本調査)に加えて短大326校(2019年4月1日時点・同)、専門学校およそ2800校の経営のために数値目標だけを追い続け、日本のたたき売りのように留学生をいたれりつくせりで受け入れ続けた。質より数を優先して。

「でも私の留学先は日本でも有名大学です。その人(無名大学の韓国人留学生)とは違う。同じにされたくない」