ルール4・温度差が複雑な味わいをつくる

「温度差をつくる」というのは、熱いものと冷たいものを組み合わせるということです。よく「熱いものは熱く、冷たいものは冷たいうちに食べるのが最高に美味しい食べ方」と言いますよね。その通り。料理人も熱いうちに、あるいは冷たいうちに食べてほしいと思って料理をつくっています。

しかし、それをさらに超越する美味しさの世界が実はあります。それが、あえて熱いものと冷たいものを混在させ、口の中で温度差をつくること。それぞれを別々に味わうよりも、香りや味わいの複雑性が感じられるようになるのです。あるいは別々に食べたのでは感じられなかった旨味が引き出されます(さらに、「ぬくい」「ぬるい」というとても高度な味わいトーンがあり、先端の料理人がそこを狙って料理をつくるようになっています)。

とはいえ、そんなに難しいことではありません。たとえば、家で残り物のカレーを食べるときに、冷たいご飯に温め直したカレーをかけたり、温かいご飯に冷たいカレーをかけて食べたりすることありますよね? 熱いご飯に熱いカレーをかけて食べたときとは違う旨さを感じませんか?

だから、前回紹介したように、吉野家に行ったら、牛丼に生野菜サラダをのせて食べます。同じように、洋食屋に行ったらハンバーグにコールスローサラダをのせます。とんかつ屋では揚げたてのとんかつとキャベツの千切りを一緒に食べます。韓国料理の店に行けば、冷麺をキムチチゲにさっとつけて食べます(冷麺が冷たい状態のまま食べるのがポイント。つけ麺を熱い汁につけて食べるのと同じ感覚)。

これだけで、定番の料理の味わいが大きく変わります。

ルール5・フィニッシュを決めておく

最後は「フィニッシュを決めておく」。これは、食べ始めるときに、最後はどのように食べ終えるかを決めておくということ。「好きなものは最初に食べるか、最後に食べるか」といった話ではなく(これはこれで重要な問題ですが)、印象と余韻を高めるための選択肢を探すという高度な戦略なのです。

植野広生『dancyu“食いしん坊”編集長の極上ひとりメシ』(ポプラ新書)
植野広生『dancyu“食いしん坊”編集長の極上ひとりメシ』(ポプラ新書)

ついカレーを食べ過ぎて、最後にご飯だけ残ってしまうとがっかりですよね。最後の一口を食べるとき、カレーとご飯が最適なバランスで残っていれば、美味しいイメージで食べ終えることができるはず。そのためには食べ始めるときに、どのように食べ進むか、順番や組み合わせなどの戦略を立てておくことが必要なのです。

基本は「メインの味わいで始まり、メインの味わいで終える」。たとえば、人によって食べ方の流儀がある崎陽軒のシウマイ弁当は、シウマイに始まりシウマイに終わるのが僕にとってのベストです。アンズをデザート的に最後に食べる人も多いと思いますが、それでは、食べ終えた口の中はアンズの味になってしまいます。

同じように、ステーキやハンバーグなら、付け合わせのジャガイモやニンジンを最後に食べるようなことはせず、最後の一口は肉で締める。ハンバーガーなら、バンズだけが残るような事態は避け、最後の一口はパティと野菜とバンズがバランスよく残るようにする。これが基本です。

結局、前回に続き、食べ方の説明になってしまいましたが、以上が、植野的「美味しい食べ方」の5大ルール(実際には、さらに細かいバリエーションがありますが……)。これを読んで「面倒くさい」と思うか、「試しにやってみるか」と思うかはあなた次第です。もちろん、食事は楽しむことが最も重要なので、こうしたルールを必死に考えながら食べるのはつまらない。たまたま僕は、考えないで自然に、直感的にこうしたルールを実践することが身についてしまっているのです。

ただ、ひとりメシの際に、「たまにはこんな食べ方してみるか」と思うだけでも、隣の人より美味しい思いができる可能性は確実に高まります。

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