植野流5大ルール
隣の人より美味しい思いをするために、自分なりの5大ルールがあります。前回、実践したことはこのルールを応用しているものです。この理論を身につけておくと、いろいろなものに応用できます。
2.犬歯を喜ばせる
3.間接風味づけ
4.温度差をつくる
5.フィニッシュを決めておく
ルール1・舌を意識する
「舌を意識する」というのは、最初に舌に何が当たるのかを意識するということです。
たとえば、刺身を食べるときに、箸で持って醬油をつけてそのまま口に入れていませんか? そうすると、まず舌に醬油が当たりますよね。いきなり醬油の強い味が広がってしまいます。だから、醬油をつけたら、その面が上になるように食べるのです(言葉では説明しにくいのですが、箸を持つ手の手首を少し捻ればできます)。これで、まず魚が舌にのり、その後から口の中に醬油の風味が広がります。魚本来の味をしっかり感じてから醬油に包まれて美味しく食べることができるのです。
鮨を食べるときも同様です。握りの底(酢飯)に醬油をつけてそのまま食べたら、舌が醬油ご飯の味に支配されてしまいます。だから、高級な鮨屋ではタネに煮切り(煮切った酒や味醂と合わせた醬油)を塗って出しますし、回転寿司など自分で醬油をつける場合でも、酢飯ではなくタネに醬油をつけて、酢飯を下にして食べるのが正解。
ただ、上にのっているタネに醬油をつけてから、それを裏返し酢飯を下にして食べるのは、実は結構難しいですよね(特に箸で食べる場合はアクロバティックな動きが必要)。そこで、回転寿司では小皿に醬油を入れ、そこにガリを少し入れておきます。握りがきたら、箸でガリを持ち、ガリを刷毛のようにしてタネに醬油を塗るのです。普通の鮨屋で手で食べる場合でも、ネギがのったアジなどは直接醬油を付けにくいので、“ガリ塗り”が便利です。
ちなみに、鮨屋が煮切りを使うのは、生醬油のままだと香りや味が強いので魚の繊細な味わいを消してしまうからです。酒と味醂を煮切って(アルコール分を飛ばして)醬油を合わせるだけなので(最初から醬油も入れて煮切るやり方もありますが、醬油によっては風味が飛んでしまうので、僕は後から醬油を足します)、家庭でもできます。刺身を食べるときに生醬油と煮切りで食べ比べてみてください。違いに驚くはずです。
あるいは餃子。小皿に醬油、酢、辣油を入れ、焼き目がついた餃子の底面をたっぷりつけてそのまま口に入れたりしていませんか? そうすると、口に入れたときにまずタレが舌について、餃子の味を感じる前に、タレの味から感じてしまいますよね。しかも、焼き目にタレをつけると、餃子の醍醐味である香ばしさが損なわれてしまいます。
僕は、まずは餃子そのものの味を楽しみたいので、皮を舌に当てることを考えます。まず皮の美味しさを感じ、それから具の味わい、焼き目の香ばしさと、それぞれピュアな状態で楽しむのです。タレも、酢→酢胡椒→酢と醬油→酢と辣油→酢と醬油と辣油、といった具合に淡い味から濃い味へと、それぞれの味わいを舌でしっかり感じられるようにします。
この「舌を意識する」というのは、どんな料理でも共通の基本。最初に舌に触れた味に支配されるので、まずは素材や料理そのままの状態で舌に当てるように意識しています。